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 地球上の陸と海の面積比は3:7。海のほうが圧倒的に広いのにもかかわらず、海は多くの謎に包まれたままだ。地球の温暖化による海面水位の上昇や氷河の消失、人間が排出する化学物質による海洋汚染など、海の環境問題は年々深刻化している。

 3月3日から5日まで、東京・千代田区の日比谷図書文化館コンベンションホールで開かれる第4回グリーンイメージ国際環境映像祭では、世界48の国と地域から応募された194作品の中から、2回の審査を通過してグリーンイメージ賞に入賞した15作品の上映を行い、最終日にグリーンイメージ大賞を決定する。上映祭では、上映だけではなく、9作品の制作者も登壇して作品について語る予定だ。

 3日の午後には、海の環境問題をテーマにした映画を4本上映する。一口に環境問題といっても内容は広範であり、映画のテーマも細分化されている。同映像祭実行委員会の尾立愛子事務局長は「映像祭では、環境問題を色々な角度から見ることができるので、何本かの映像をまとめて通して見ると、見えてくるものがある」と話す。

 『海−消えたプラスチックの謎(仮題)』(ヴィンセント・ペラズィオ監督)は、海を漂うプラスチックの顛末を追ったドキュメンタリー。プラスチック製品の生産量は年を追うごとに増加しているが、使用済み製品の処理量の伸びは生産量に比例せず、あまりにも少ない。それでは、そのギャップはどこに消えたのだろうか。科学者たちはプラスチックの行方を探索する。

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『海−消えたプラスチックの謎(仮題)』

 『生きる 伝える”水俣の子”の60年』(東美希監督)は、水俣病が公式認定された60年前に生まれた「水俣の子」が病を背負いながら生き抜いてきたさまを描く。

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『生きる 伝える”水俣の子”の60年』

 『ロングイェールビーン 極北の街(仮題)』(マニュエル・デイラー監督)は、北極圏にあるノルウェーの小都市ロングイェールビーンが抱える環境問題をあぶり出す。

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『ロングイェールビーン 極北の街(仮題)』
 
 『とけてゆくスイス 氷河×光×地球の未来』(濱中貴満監督)は、地球温暖化で危機に瀕している氷河の問題を取り上げている。温暖化に対抗する手段はあるのだろうか。世界各地の氷河を研究者とともに追いかける。

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『とけてゆくスイス 氷河×光×地球の未来』

 また、今回の映像祭では、誰もいなくなった福島の避難区域に一人で暮らす住民を主人公に描いた作品が日本とヨーロッパから2作品応募され、ともに入選した。3日には異なる視点から描かれた2本を連続上映し、両作品の制作者の対談を予定している。

 日本の『ナオトひとりっきり』(中村真夕監督)は主人公をより人間臭く描き、『ハーフライフ・イン・フクシマ(仮題)』(フランチェスカ・スカリージ、マーク・オレクサ監督)は、廃墟となった街に住む主人公をよりシリアスに描くといったように、同じテーマを別の角度から見比べてみるのも面白いだろう。

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『ナオトひとりっきり』

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『ハーフライフ・イン・フクシマ(仮題)』

 また、野生生物をテーマにした作品では、『天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏』(人見剛史監督)、『無人の国境線がもたらしたもの−再生された自然(仮題)』(ウェ・ミューラー監督)、『被爆の森 原発事故5年目の記録』(苅田章・藤松翔太郎監督)が上映される。

 『天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏』は、大阪の人々に愛され、老いと戦いながら最後の最後までお客さんの前に立ち続けたアジアゾウの春子が天国に旅立つ時までをカメラで記録した。

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『天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏』

 ドイツの『無人の国境線がもたらしたもの−再生された自然(仮題)』は、ドイツを分断していた有刺鉄線と動物たちとの関係を繊細な観察であぶり出す。人々を引き裂いていた境界線は、動物たちにとっては決して障壁ではなかったのだ。現在、かつての無人地帯はドイツで最大の野生生物たちが生息する回廊になっており、ヨーロッパにおけるグリーンベルトの一部になっている。

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『無人の国境線がもたらしたもの−再生された自然(仮題)』

 『被爆の森 原発事故5年目の記録』は、原発事故が生んだ地域の変化を描く。事故による広大な無人地帯では、5年間で世界にも類を見ない生態系の激変が起きた。植物が町や農地を覆い尽くし、イノシシの群れが白昼堂々と街を歩いている。

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『被爆の森 原発事故5年目の記録』

 そのほか、山で暮らす人生を描いた作品として、新米林業作業員の生活をドキュメンタリータッチで描いた『林こずえの業』(蔦哲一朗監督)、山口県岩国市の山奥で暮らす老夫婦の第二の人生を長年に渡って追い続けた『ふたりの桃源郷』(佐々木聰監督)、雪深い村に都会から移り住んだ夫婦が大地震で倒壊した茅葺屋根の古民家の再建を決意する『風の波紋』(小林茂監督)が上映される。また、ロシアから『天気予報(仮題)』(イヴァン・テヴェドフスキー監督)、フィンランドから『エコポリス(仮題)』(アンナ=カリン・グロンロス監督)、スイス・キルギスタン映画の『ブロック(仮題)』(ナディーネ・ボーラー監督)がグリーンイメージ賞に入選している。

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『林こずえの業』

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『ふたりの桃源郷』

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『風の波紋』

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『天気予報(仮題)』

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『エコポリス(仮題)』

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『ブロック(仮題)』


 5日には特別プログラムとして、間伐材を使った森と共存する建物づくり「板倉建築」について、日本古来の建築技法に詳しい安藤邦廣筑波大学名誉教授をゲストに招き、森林資源を生かす建築への取り組みについて紹介する。

 参加費は1日券が1500円(学生1000円)、3日間通し券が3000円、中学生以下は無料。事前予約不要。上映日程は、3月3日(金)が午前11時45分から午後9時45分まで、3月4日(土)が午前11時から午後6時50分、5日(日) は午前11時から午後4時45分まで。

公式ウェブサイト
http://green-image.jp/filmfestivals/4th/


上映プログラム
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◆3月3日(金)11:45 - 21:45 [開場 11:30]
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11:45 ……………………………………………………………………………………

天気予報(仮題)
[英題:The Weather Forecast]
http://green-image.jp/films/weather-forecast/

明日の天気を知るのは簡単だが、その天気予報は誰がどうやって作っているのか?圧倒的な映像美で綴られる極北の気象観測の最前線。

ロシア / 2016 / プロデューサー:Sergei BRAGIN / 監督:Ivan TVERDOVSKY
/ 制作:OOO Production Center "KINOFEST" / 63分 / 英語(日本語字幕)


12:50 ……………………………………………………………………………………

林こずえの業
http://green-image.jp/films/hayashikozue/

新米林業作業員である林こずえの1日が今日も始まる。徳島県山間部を舞台に、重機を駆使した近代林業の現状をドキュメンタリータッチで描いた作品。自然を讃えるとともに、山で生きる人々への敬意を込めた人間讃歌。

日本 / 2016 / プロデューサー・監督:蔦 哲一朗
/ 制作:一般社団法人ニコニコフィルム / 30分 / 日本語(英語字幕)

●上映後トーク:蔦 哲一朗さん(『林こずえの業』監督)


13:55 ……………………………………………………………………………………

海−消えたプラスチックの謎(仮題)
[英題:Oceans: The Mystery of the Missing Plastic]
http://green-image.jp/films/mystery-of-the-missing-plastic/

世界の海洋に浮かぶプラスチックの99%は行方不明。マイクロプラスチックの捜索とその影響調査に乗り出した各地の科学者たちの最新研究を追う。

フランス / 2016 / プロデューサー:Cecile de La GARANDERI / 監督:Vincent PERAZIO
/ 制作:Via Decouvertes / 53分 / 英語(日本語字幕)


14:50 ……………………………………………………………………………………

生きる 伝える "水俣の子"の60年
http://green-image.jp/films/ikiru-tsutaeru/

かつて「魚湧く海」と呼ばれた豊かな海で発生した水俣病。チッソがプラスチックを作る過程で出たメチル水銀が海を汚染し、その海でとれた魚を食べた人々に病気が広がった。水俣病公式確認から60年、病を背負い生き抜いてきた「水俣の子」が私たちに伝えるものとは。

日本 / 2016 / プロデューサー:大木 真美 / 監督:東 美希
/ 制作:熊本県民テレビ / 46分 / 日本語

●上映後トーク:東 美希さん(『生きる 伝える "水俣の子"の60年』監督)


16:05 ……………………………………………………………………………………

ロングイェールビーン 極北の街(仮題)
[英題:Longyearbyen, a Bipolar City]
http://green-image.jp/films/longyearbyen/

北極圏スヴァールバル諸島に位置するノルウェーの都市ロングイェールビーンは、100年前から石炭採取が経済の中心である。気候変動の影響を受けながら、石炭の生産と消費を続ける矛盾を抱えたこの極北の地のいまを伝える。

フランス / 2016 / プロデューサー:Nina ARDOIN / 監督:Manuel DEILLER
/ 制作:Artcam Production / 69分 / 英語、フランス語(日本語字幕)


17:15 ……………………………………………………………………………………

とけてゆくスイス 氷河×光×地球の未来
http://green-image.jp/films/melting-switzerland/

気候変動の影響で危機に瀕する地球の氷河。最新研究ではスイスアルプスの氷河が、2100年には消滅するという予測も出ている。グリーンランド、パタゴニア、スイス、世界各地の氷河を研究者とともに追い、温暖化に抗する最新の科学技術を探る。

日本 / 2016 / プロデューサー・監督:濱中 貴満
/ 制作:HTB北海道テレビ放送 / 48分 / 日本語

●上映後トーク:濱中 貴満さん(『とけてゆくスイス 氷河×光×地球の未来』監督)


18:35 ……………………………………………………………………………………

ナオトひとりっきり
http://green-image.jp/films/alone-in-fukushima/

原発事故で全町避難になった町に動物たちと残り、1人で戦い続ける男・ナオトの1年を追ったドキュメンタリー。
放射能汚染されても続くいのちを見つめた作品。

日本 / 2015 / プロデューサー・監督:中村 真夕
/ 制作:オンファロス ピクチャーズ / 98分 / 日本語


20:15 ……………………………………………………………………………………

ハーフライフ・イン・フクシマ(仮題)
[英題:Half-Life in Fukushima]
http://green-image.jp/films/half-life-in-fukushima/

原発事故の後、避難地域となった故郷の町で1人生活を営むナオト。誰もいないシュールリアルな町の風景、
荒廃と廃墟の中で確固とした生命の痕跡を作品は映し出す。

スイス、フランス / 2016
/ プロデューサー:Christian LELONG, Mark OLEXA, Francesca SCALISI
/ 監督:Francesca SCALISI, Mark OLEXA / 制作: / 60分 / 日本語、英語

●上映後トーク:
 中村 真夕さん(『ナオトひとりっきり』監督 )
 Francesca SCALISIさん・Mark OLEXAさん(『ハーフライフ・イン・フクシマ』監督)


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◆ 3月4日(土)11:00 - 18:50 [会場 10:45]
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11:00 ……………………………………………………………………………………

天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏
http://green-image.jp/films/life-and-journey-of-haruko/

1950年まだ戦争の爪痕が残る中、タイから大阪の天王寺動物園に来園したアジアゾウ・春子は熱烈な歓迎を受け、以来、大阪の人々に愛され続けた。老いと闘いながら、最後の最後までお客さんの前に立ち続けた春子。最後の時までカメラはまわり続けた。

日本 / 2015 / プロデューサー・監督:人見 剛史
/ 制作:テレビ大阪 / 99分 / 日本語

●上映後トーク:人見 剛史さん(『天王寺おばあちゃんゾウ春子 最後の夏』監督)


13:40 ……………………………………………………………………………………

無人の国境線がもたらしたもの―再生された自然(仮題)
[英題:Nature Reclaims the Border]
http://green-image.jp/films/nature-reclaims-the-border/

何十年もの間、有刺鉄線がドイツを分断し、東西に分かれた政治体制は、家族や友人を引き離し、境界線上の規制区域へは誰の侵入も許されなかったが、それは危機に瀕した動植物の避難所となった。ドイツ最長の緑の回廊となった、かつての無人地帯に息づく野生生物たちの鮮やかな姿を描く。

ドイツ / 2014 / プロデューサー・監督:Uwe MUELLER
/ 制作:Capricornum Film / 44分 / ドイツ語、英語(日本語字幕)


14:25 ……………………………………………………………………………………

被曝の森 原発事故5年目の記録
http://green-image.jp/films/radioactive-forest/

福島第一原発事故によって生じた広大な無人地帯。5年の歳月で世界にも類を見ない生態系の激変が起きている。四季の移ろいや帰還を模索する住民の姿を織り交ぜ、原発事故が生んだ“被曝の森”の5年目の知られざる姿を描く。

日本 / 2016 / プロデューサー:高山 仁、浅井 健博、矢島 敦視、池本 端、松本 浩一
/ 監督:苅田 章、藤松 翔太郎 / 制作:日本放送協会 / 58分 / 日本語

●上映後トーク:苅田 章さん・藤松 翔太郎さん(『被曝の森 原発事故5年目の記録』監督)


15:55 ……………………………………………………………………………………

エコポリス(仮題)
[英題:Ecopolis China]
http://green-image.jp/films/ecopolis/

農村に暮らす10億人の中国人が都市へ移住した時、地球は甚大な変化に見舞われると予測されている。その危機を救うべく都市の再開発を行おうとするフィンランドの教授と中国経済界の有力者。彼らの目指す対照的なユートピアとは。

フィンランド / 2013 / プロデューサー:Pertti VEIJALAINEN / 監督:Anna-Karin GRONROOS
/ 制作:Illume Ltd / 56分 / 英語、フィンランド語、中国語(日本語字幕)


17:00 ……………………………………………………………………………………

ふたりの桃源郷
http://green-image.jp/films/to-end-our-days-on-the-mountain/

「残りの人生は夫婦で、あの山で過ごそう」還暦を過ぎた時、思い出の山に戻り、第2の人生を生きる道を選んだ田中寅夫さん・フサコさん夫妻。畑でとれる季節の野菜、湧き水で沸かした風呂、窯で炊くご飯‥‥。かけがえのない2人の時間に、やがて「老い」が静かに訪れる。

日本 / 2016 / プロデューサー:久保 和成 / 監督:佐々木 聰
/ 制作:山口放送株式会社 / 87分 / 日本語

●上映後トーク:佐々木 聰さん(『ふたりの桃源郷』監督)


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◆ 3月5日(日)11:00 - 16:45 [会場 10:45]
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11:00 ……………………………………………………………………………………

ブロック
[英題:The Block]
http://green-image.jp/films/block/

キルギスタンの大草原の真ん中、ソビエト時代の取り残された建物の遺構が、遊牧民の日常生活にとって大切な場へ変化した。

スイス、キルギスタン / 2015 / プロデューサー・監督:Nadine BOLLER
/ 制作:Nadine BOLLER / 10分 / キルギス語(日本語・英語字幕)


11:10 ……………………………………………………………………………………

風の波紋
http://green-image.jp/films/dryads-in-a-snow-valley/

越後妻有の里山、雪深い村に都会から移り住んだ木暮さん夫婦、茅葺屋根の古民家を修復し、見よう見まねで米を作り暮らしてきた。ある春の朝、大きな地震が起き、木暮さんの家も全壊したが、彼は再建を決意する。

日本 / 2015 / プロデューサー:矢田部 吉彦、長倉 徳生 / 監督:小林 茂
/ 制作:カサマフィルム / 99分 / 日本語

●上映後トーク:
 小林 茂さん (『風の波紋』監督)
 長倉 徳生さん(『風の波紋』プロデューサー)
 聞き手 大川原通之さん(日本住宅新聞編集長)


14:00 ……………………………………………………………………………………

特別プログラム:「森を活かす板倉建築−先人の知恵・元祖モバイルハウス」

 [講演] 安藤 邦廣さん(筑波大学名誉教授・里山建築研究所主宰)

 [パネリスト] 竹山 史朗さん(モンベル広報部本部長)
 [進行] 尾立 愛子(グリーンイメージ国際環境映像祭実行委員会事務局長)

 [上映]「板倉建築の校舎−森とつながる都会のなかの学びの場」
     日本 / 2017 / 14min / 日本語


15:30 表彰式 ……………………………………………………………………………



(矢澤利弘)