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 勝手気ままに生きている兄(川瀬陽太)。自動車事故で妻を亡くし、一人で息子を育てる弟の次郎(木村知貴)。兄の婚約者(湯舟すぴか)。そして息子の登。永山正史監督の『トータスの旅』は、どこかイカレている4人が亀と一緒に結婚式を挙げる島へ向かう旅を描くひと夏のロードムービーだ。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017のファンタスティック・オフシアター・コンペティションでグランプリを受賞した。

 性格の相反する兄と弟、弟は自分の息子とはうまくいっていない。兄は婚約者と結婚式を挙げるため、無理やり次郎と登を旅に連れ出す。人物像の設定は明確であり、ストーリーの展開もスムーズで無駄なところがない。

 はじめは何もできなかった赤ん坊が少しずつ成長し、動けるようになっていく。それは親にとってうれしいものだ。だが、裸で走り回ったり、大声を出したりするようになると、人に迷惑がかかるようになるため、子供を叱らなければならなくなる。こんな悩みに直面した永山監督は、赤ん坊の無邪気な行動を、せめて「スクリーンのなかでは肯定したかった」という。  

 本作には素っ裸になって暴れ出す大人が登場する。また、自分の思うがまま、勝手気ままに行動する大人も登場する。まるで赤ん坊である。実際の社会でこんなことをやったら迷惑千万、警察に逮捕されてしまうだろう。だが、映画のなかではこうした迷惑な奴が実にいとおしいのだ。

 ロードムービーというものは、ある地点からある地点への物理的な旅と主人公の心の旅路がシンクロするという作り方がセオリーであり、実際この作品もそうなっている。永山監督は、教科書的で安定した構成で見せていく手堅い演出をみせる。

 妻を自動車事故で殺した相手が営んでいる居酒屋に行き、次郎役の木村知貴が全裸になってギターを弾きながら熱唱するシーンの熱演は忘れがたい。「8月31日の撮影日は誕生日だった。生まれた時と同じ裸で仕事をさせていただいてありがたいと思った」と木村は語る。オーディションでキャスティングされた兄の婚約者役の湯舟すぴかのキャラクターづくりも新鮮だった。


(2017年3月3日午前10時、ゆうばりホテルシューパロ2階嶺水の間、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭)(矢澤利弘)

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木村知貴


 

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湯舟すぴか