「女性の描き方がひどすぎると思いました」——。全ての作品ではないと前置きしながら、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017でファンタスティック・オフシアター・コンペティションの審査員を務めた女優のほたるさんは、授賞式の席上、同映画祭への出品作品の傾向に苦言を呈した。また、同じく審査員の光武蔵人監督からも今回のノミネート作品は「あまりファンタスティックではなかった」との声が聞かれた。
3月2日から北海道夕張市で開催されていたゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017が6日、閉幕した。コンペティション部門には532本の応募があり、そのなかから7本がノミネート作品として映画祭の会場で上映された。グランプリを受賞した『トータスの旅』(永山正史監督)は親子の関係を主軸にしたロードムービーであり、審査員特別賞を獲った『ベートーベン・メドレー』(イム・チョルミン監督)は作曲家とタクシー運転手が主役のラブコメディー、北海道知事賞の『はめられてRoadto Love』(横山翔一監督)は映像制作会社で働くさえない男がAV業界の騒動に巻き込まれるさまを描く業界の内輪ものだ。いずれの映画もファンタスティック映画と呼ばれるホラーやSFあるいはアクション活劇といったジャンルに含まれる作品ではない。シネガーアワード(批評家賞)を受賞した『ストレンジデイズ』(越坂康史監督)も性行為描写の割合が高い作品だ。
夕張市の財政破綻によって2006年をもって中止になったゆうばり国際ファンタスティック映画祭が、市民主導によって2008年に復活してから2017年までの10回の入賞作品を見渡してみても、SFは2011年に『エイリアン・ビキニの侵略』(オ・ヨンドゥ監督)が受賞しただけであり、ホラーは一度もグランプリに選ばれていない。
近年の作品の傾向を見ても、ほたるさんが「女性蔑視的な表現があまりに多すぎます。女性は、男性の欲望、性欲を受け止める存在か、母親しかいない」と指摘するように、男性の視点からだけの作品が目立つ。
ただ、若手のフィルムメーカーを育成する場として、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭はぴあフィルムフェスティバルと並ぶ存在であることは確かだ。ぴあフィルムフェスティバルに比べて、エンターテインメント性のある作品を重視しているところがゆうばり映画祭の特徴。「審査員には怒られるかもしれないが、ちょっとのっけてあげたいなという人をノミネートしている」とオフシアター・コンペティション部門のプログラミングディレクターの塩田時敏さんは説明する。特に近年はアクの強い作品がノミネート作品として最終審査に残っている。
何度もこの映画祭に参加している40代のホラー映画ファンからは「男女の恋愛を描いた映画ばかりで、違和感がある」との声も聞かれた。ゆうばりファンタは「ファンタスティック映画祭」としてのコンセプトを維持すべきなのか、それとも新人の登竜門として、幅の広いジャンルに門戸を開いた映画祭という地位を確立すべきなのか。
高市早苗総務相は7日、夕張市の再生計画見直しに同意。夕張市は緊縮財政一辺倒の政策から転換し、2017年度からの10年間で、認定こども園新設など113億円の新規事業を行う。夕張市の再スタートといえる。
閉会式で深津修一プロデューサーは、「来年も必ず(映画祭を)やります」と宣言、次年度はアニメ部門の新設など、新しい企画を検討していると明かした。復活後、11回目を迎える次回の映画祭は、作品のプログラミングの方向性を含めて、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭存続の正念場だといえよう。
(写真:上がほたるさん、下が光武蔵人監督)
(矢澤利弘)