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 秋山和慶が音楽監督兼常任指揮者として最後となる広島交響楽団の定期演奏会が18日、広島市中区の広島文化学園HBGホールであった。

 秋山は1998年に同交響楽団の主席指揮者・ミュージックアドバイザーに就任後、2004年からは音楽監督・常任指揮者を務めてきた。約20年間に渡り同交響楽団とともに歩んできた秋山のファイナル「マチネ」に1900人の観客が詰めかけた。

 秋山の軽快な指揮で、モーツァルトの「ディヴェルティメントK136」からコンサートは幕を開いた。バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの弦楽器が明るく曲を奏でていく。

 秋山は最近ラジオ番組に出演した際、「ディヴェルティメントK136」に関する特別な思い出を語っている。「桐朋学園大学の齋藤秀雄門下生は、入学すると一番はじめにこの曲を勉強する。いわば、トレードマーク、テーマ音楽のような位置づけの朗らかな明るい曲である。齋藤先生が亡くなる年に、志賀高原で夏の合宿があり、病気で入院していた齋藤先生は車いすで指導にあたった。合宿の仕上げの演奏会をホテルのロビーで行った際、普段であれば、この曲は、ほがらかに明るくはつらつと指揮をする齋藤先生が、慎重にゆっくり、しかし情熱を込めて指揮をして、オーケストラのメンバー皆泣きながら演奏した。その演奏を聴いた、齋藤先生の病気のことを何も知らない観客の一人が『今のモーツァルトはお別れの曲ですか?』と尋ねたという。そのときの演奏が本当に美しかった」−
−。秋山にとって、この曲は、恩師との思い出が詰まっているのだろう。

 次に、モーツァルトが最晩年に作曲した「クラリネット協奏曲K.622」が続いた。クラリネットソロは、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団・ウィーン国立歌劇場管弦楽団の首席奏者のダニエル・オッテンザマー。日本ではNHK交響楽団や東京交響楽団などと共演。クラシック音楽番組の「題名のない音楽会」にも出演した実力と人気を兼ね備えた30歳の若い演奏家だ。

 オッテンザマーは、持つ楽器が小さく感じられるほど長身で細身だ。いつ息継ぎをしているのかと不思議になるほど、長いフレーズの連続を軽々と超える。2楽章のアダージョでは、クラリネットから弦楽器、フルート・ファゴット・ホルンに引き継がれていくどこまでも美しいメロディーが聞かれた。

 アンコール曲はダニエル・オッテンザマーの「レメンセンス」。静まりかえった会場に響くピアニッシモの超高音は、小さい針の穴に一度で糸を通すような、狙い澄ました鋭さだ。

 コンサートはリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」Op.40でクロージングとなった。この曲は英雄、英雄の敵、英雄の伴侶、英雄の戦場、英雄の業績、英雄の引退と完成の6つの部分からなる。それぞれの部分は明確に区切れておらず、約45分間続けての演奏となる。力強い英雄のテーマ、ファンファーレ、美しく甘いバイオリンソロ、テーマの再現、と場面展開が進められ、聴衆は英雄の生涯に引込まれた。

 演奏終了後、秋山に対して「どうもありがとうございました」と観客席から声がかかり、10分近く拍手が鳴り止まなかった。4月から秋山は広島交響楽団の終身名誉顧問となる。


(2017年3月18日、広島文化学園HBGホール)(城所美智子)


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