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 売れないアーティストを応援しているファンの心境というものは複雑だ。そのアーティストがもっと売れて欲しいと願う一方、自分だけのものでいて欲しいと思っていたりもする。村山和也監督の『堕ちる』は、寂れた工場で働く織物職人の主人公、耕市がふとしたきっかけで地元の地下アイドルにはまっていく様を描く。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でスペシャル・メンションを受賞している。

 いかにもつまらなそうな生活を孤独に送っている主人公が、ある地下アイドルにハマったことから生きがいを見出していく。押入れに眠っていたプレーヤーを取り出してCDを聞き、部屋中にポスターを貼る。ファンたちの会合にも顔を出すようになり、お揃いのTシャツを着て応援。アイドルのためにプレゼント用の織物を作り始める。

 不器用で単調な生活しかしていない中年男が、生活に歓びを見出していく姿は、オタク心を持つ観客にとっては「あるある」とうなづくことだろう。

 手が届く存在だったからこそ応援していた相手が突然手の届かない存在になったら。そうした設定は古くから繰り返し使われているテーマであり、新しいところでは『ラ・ラ・ランド』などにも通じるところがある。

 本作はきりゅう映画祭2016の企画コンペ通過作であり、同映画祭からの助成を受けて制作された。30分という尺のなか、テンポよく人生の悲喜交々を織り込んだ快作である。


(2017年3月3日、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017)(矢澤利弘)