ごく単純な恋愛譚がマフィアをめぐる激動のイタリア近現代史に昇華していく。その見事な構成と映画的筆致に脱帽せざるを得ない。ピエルフランチェスコ・ディリベルト監督の『愛のために戦地へ』は、第二次世界大戦下のシチリアを舞台に、主人公の恋愛事情を主軸にしつつ、南イタリアを覆うマフィア問題の根深さを描く。
第二次大戦末期。パレルモ出身のアルトゥーロはニューヨークのレストランで働いており、店のオーナーの姪フローラと愛し合っている。だが、フローラは在米マフィアの大物の一味の若い男と結婚を強いられている。そこで、この結婚を阻止し、自分と結婚できるように、シチリアに住むフローラの父親と会い、自分との結婚を許してもらうことにする。アルトゥーロはシチリアに上陸しようと画策している米軍に志願し、フローラの父親を探す。だが、米軍はシチリア占領をスムーズに進めるため、地元のマフィアと密約を結んでいたのだった。
前作の『マフィアは夏にしか殺(や)らない』と同様、ディリベルト監督がピフの名義で主演を兼ねている。また、愛し合うふたりの役名がアルトゥーロとフローラであることも前作と共通している。恋を成就させるために奮闘努力する主人公の活躍をマフィアに対する問題意識に投射させる展開、そして、フィクションを史実とからめて描く手法もまたディリベルト監督の特徴である。
マフィアを正面から捉えるのではなく、あくまでも恋愛を中心に描いていくことで、マフィアというものがいかにイタリア人の日常生活に深く浸み込んでいるのかが見えてくる。
アルトゥーロの上司にあたる中尉フィリップとの友情、史実とフィクションとの融合、ベンチで待ち続ける主人公など、アメリカ映画『フォレスト・ガンプ』との類似点も垣間見える。
主人公たちの周囲を取り巻くサブキャラクターもなかなかいい。戦場へ行った父親の帰還を待ちわびる少年、目の見えない男と足の悪い男のコソ泥コンビ、それぞれが戦時下という時代、どうにかこうにか生き抜いている。繊細な人物描写が光っている。
本作はからっとしたハッピーエンドにはならない。多くの登場人物が挫折していく。『マフィアは夏にしか殺(や)らない』に比べて、もやもやした気分が残るだろう。それは、本作がより深くマフィアの暗部に切り込んでいるからにほかならない。
(2017年5月3日、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭2017)(矢澤利弘)