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 厳格な小さな世界で生きることを選択するのか、それとも俗だが広い世界で生きていくのか。マルコ・ダニエリ監督の『ジュリアの世界』は、エホバの証人というモチーフを使って、ある少女の心の再構築を描いた作品である。

 エホバの証人の敬虔な信者である両親を持つ少女ジュリアは数学の能力が高い優秀な学生だ。ジュリアも信者として教団の集会に通い、厳しい規則を守りながら俗世間と画した生活をしている。信仰生活を続けるために大学にも進学しようとしない。そんななか、信者の息子で麻薬密売で刑務所に服役していたリベロと知り合い、愛し合うようになってから彼女の生活は変わっていく。

 マルコ・ダニエリ監督は短編映画やドキュメンタリー作品で実績を積み上げてきた。長編デビュー作にあたる本作では、エホバの証人や関連する人々に対する綿密な取材と検証が行われ、細部にリアリティのある自然な流れで物語が展開していく。手持ちカメラを多用し、ドキュメンタリータッチで撮られた部分もあり、今までのキャリアを十分に生かし切った映画に仕上がっている。

 エホバの証人の信者からすれば「世俗」と呼ばれる世界に生きている人間からすれば、エホバの証人の信者こそが異様にも感じられる。そのため、一見すると、この作品は、エホバの証人という教団の閉鎖性と異様さを追求する映画のようにも見える。しかし、本作の狙いはそこにはないようだ。

 あくまでも、エホバの証人という設定は、主人公ジュリアの心の動きを描き出すための背景に使われているだけであり、本作の主眼は、厳格な世界に縛られていた少女が本来の自分の世界を見出していくまでの姿を語ることにある。

 一歩踏み出したジュリア。彼女に残された人生はまだまだ長い。
 

(2017年5月3日、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭)(矢澤利弘)