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「テクニックを磨くことが練習の目的ではない。バイオリンと弓は、木材と金属と馬の毛を使って作った道具に過ぎず、それを使って、自分の魂に従った音を作り出すことが大切なこと。人間が歌うときの声のようにバイオリンの音を出しなさい」ーー。

スイスを拠点にコンサート・バイオリニストの育成を行なっているハビブ・カヤレイによるバイオリンの公開レッスン「第17回カヤレイ・ヴァイオリン・マスタークラス2017春in東京」が3日、東京都新宿区のルーテル市ヶ谷ホールであった。

カヤレイは1人あたり1時間のレッスンを休憩なしに3時間通しで行い、時にタオルで汗を拭いながら受講生にアドバイスを与え続けた。

「パガニーニが作った難曲も、バイオリンを初めて弾いた時の初心者向けのエチュードも、同じ心で取り組みなさい、全ての音を大切に」

カヤレイは2005年から毎年来日し、のべ200人以上の若い音楽家にバイオリンのレッスンを行なっている。この日は全4回の公開レッスンの2回目。3人の若者がこれまで練習を重ねてきた1曲を聴講者の前で演奏し、カヤレイの指導を受けた。曲は1人目がメンデルスゾーンのコンチェルト作品64第1楽章、2人目がドヴォルザークのコンチェルト作品53第1楽章、3人目がチャイコフスキーのワルツ・スケルツォ。

レッスン冒頭、受講生が曲を一通り演奏すると、すでに十分に美しい音楽が奏でられているように聴こえる。しかし、カヤレイの専門的で論理的な助言と手本となる演奏を交えたレッスンが進むにつれ、受講生の演奏は目に見えて進化していき、会場の聴講者から拍手が送られる場面が多くあった。

「音の教育者」と称されるカヤレイの指導を受けた若い音楽家達は、希望と指針を与えられたことだろう。

ハビブ・カヤレイ:パリ・コンセルバトワールを首席で卒業。1988年、スイス・ジュネーブ近郊のクランにカヤレイ・ヴァイオリン・アカデミーを設立、様々な国から数多くの才能ある学生を受け入れ、優れたコンサートヴァイオリニストを育てている。欧州の伝統に裏打ちされた豊かな音色は通常のレッスンの概念や楽器の枠をこえ芸術的で深い感銘を与えるとして賞賛を浴びている。メディアにも度々取り上げられ、弦楽器専門誌「サラサーテ」ではボーイングやビブラートなどの特集で毎回好評を得ている。

(2017年5月3日、東京都新宿区ルーテル市ヶ谷ホール)(城所美智子)