モーツァルト自身が奏でた2挺のバイオリンが日本に上陸し、3日から8日まで、第一生命保険日比谷本社でロビーコンサートが行われた。
ひとつは、モーツァルトが幼少期に父からバイオリンの手ほどきを受けた頃に使っていたチャイルド・バイオリンで、サイズは現在のバイオリンの半分程度のもの。もうひとつは、モーツァルトがオーストリアのザルツブルクの宮廷楽団でコンサートマスターを勤めていた頃に弾いていたコンサート・バイオリンだ。いずれもザルツブルグにある非営利団体の国際モーツァルテウム財団が所有している。
モーツァルトが24歳になるまで使用していたザルツブルグ時代のコンサート・バイオリンを演奏したのは、オーストリア在住でモーツァルテウム管弦楽団ソロ・コンサートマスターのフランク・シュタートラー。 1700年代の終わり頃に使われていたピアノのレプリカとして作られたフォルテピアノの演奏は、パリ在住の国際的ピアニストの菅野潤。
6日間にわたって行われたコンサートでは、モーツァルトが作曲した様々な曲が演奏されたが、6日午後6時からのプログラムでは、バイオリンとフォルテピアノで「バイオリン・ソナタ作品番号305」、「バイオリン・ソナタ作品番号 296」が披露され、フォルテピアノで「クラビーア・ソナタ作品番号330」の独奏を聞くことができた。
「バイオリン・ソナタ作品番号296」は1778 年に作られ、モーツァルトがこのザルツブルグ時代のコンサート・バイオリンを弾きながら作曲したものと推定されている。
モーツァルトのバイオリンは、柔らかく、まろやかな音色だ。現在のバイオリンでは、4本の弦が金属や合成繊維で作られていることが多いが、モーツァルトのバイオリンは羊の腸を素材にした「ガット弦」を使っている。弦を支えて振動をバイオリンの箱に伝える役目をする駒の形や高さ、左手の指で押さえる指板の角度も現代のバイオリンと違っている。
250年前、ザルツブルグの宮廷楽団のコンサートマスターだったモーツァルトが弾いていたバイオリンを、現在のザルツブルグの楽団のコンサートマスターであるシュタートラー氏が演奏するという演出は、コンサートのタイトルの通り、「今蘇る、モーツァルトの響き」そのもの。会場のロビーには立見客もでて、大人から小さい子どもまで、モーツァルトの響きを楽しんでいた。
モーツァルトのザルツブルグ時代のコンサート・バイオリン:18世紀初期に、ドイツとオーストリアとの国境近くにある都市ミッテンバルト周辺に住むバイオリン職人集団のクロッツ一族によって作られた。モーツァルトの5曲のバイオリン協奏曲はすべてこのバイオリンを弾きながら作曲したものと考えられている。 1780年11月にモーツァルトがウィーンに転居した際に、姉のナンネルの手に渡り、ナンネルは 1820 年まで所有した。その後は個人の間を転々とし、1956年のモーツァルト生誕200 年に記念の年に、国際モーツァルテウム財団の所有となった。 19世紀には多くの年代物のバイオリンは改造されたが、このバイオリンは、渦巻きの部分であるネックや左手の指で押さえる指板の改造が施されておらず、古楽器仕様となっている。
(2017年5月6日、東京都千代田区、第一生命保険日比谷本社1階ロビー)(城所美智子)