満点の星空の下、鎮守の森と海に囲まれた神聖な場所で、美しい歌声が豊かな自然と観客の心を結びつけた。

 

ソプラノ歌手の雨谷麻世が19日、広島県廿日市市にある世界遺産の厳島神社で「平清盛生誕900 年前年祭 鎮守の森・奉納コンサート」を行った。服部克久が作曲、雨谷が作詞した曲「厳島より愛をこめて」を平清盛生誕900年記念厳島神社奉納歌として初演、約1時間半に渡り、アンコールを含めて13曲を熱唱した。

 

コンサートのステージは厳島神社の赤い社殿に囲まれた「高舞台」に設けられた。高舞台の後方は原始林におおわれた弥山の翠が広がり、前方には、瀬戸内の静かな海にライトアップされた赤い大鳥居がそびえ立つ。山際に夕日が沈み、あたりが暗くなりはじめた頃、浅川朋之が奏でるハープの演奏で幕が開けた。頭上を飛ぶ鳥のさえずりがときおり聴こえるのも屋外コンサートならではの醍醐味だ。

 

スパンコールが散りばめられた白いドレスをまとった雨谷は、最初にイギリスの少年合唱団リベラの曲「彼方の光」を歌い、透明感のある歌声で幻想的な雰囲気を作り出した。2曲目は、エンニオ・モリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス」。山成御治代の弾くバイオリンが哀愁を感じさせる。 3曲目は「地球へのオマージュ」。ホルストの組曲「惑星」より「ジュピター」のメロディに、雨谷が作った詞をのせた曲だ。この頃にはあたりはすっかり暗くなり、空には一番星が輝いた。

 

続いて、古くから歌い継がれている名曲を美しく聴かせた。4曲目はラテンアメリカの民族音楽フォルクローレの代表曲である「コンドルは飛んで行く」、5曲目は昭和初期に作られた童謡で今も歌い継がれている「月の砂漠」。

 

6曲目は荒木とよひさ作詞、宮川彬良作曲で、雨谷が歌ったオリジナルソング「僕にできること」が披露された。かつて、この曲に注目した教員が勤務していたのが広島県呉市にある長迫小学校だった。長迫小学校の児童たちが最初にこの曲を歌い、だんだんと広まった結果、今では小学 5年生の音楽の教科書に採用されているという。広島県にゆかりのある曲であることが紹介されると、会場の観客は一層大きな拍手を送った。

 

7曲目は歌劇「カルメン」より「恋は野の鳥」、8曲目のピアソラの「リベルタンゴ」は金井信のピアノに合わせて雨谷はスキャットで、いずれも情熱的に歌いあげた。9曲目は歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」、10 曲目は歌劇「蝶々夫人」より「ある晴れた日に」とオペラの名曲が続く。

 

11曲目はカッチーニの「アベマリア」。静岡から来た女性は、「雨谷さんが歌う「アベマリア」が以前から大好き。世界遺産の厳島神社で、クリスタルボイスを生で聴くことができてうれしい。コンサート鑑賞ツアーに参加したかいがあった」と感激していた。

 

コンサートの最後は、服部克久が作曲し、雨谷が作詞した曲「厳島より愛をこめて」をアンコールと合わせて2回続けて歌った。会場には自らが曲を手がけた服部も駆けつけ、初演を見守った。

 

終演後も雨谷は舞台に残り、広島のみならず日本全国各地から駆けつけたファンと握手をしたり写真撮影に応じていた。神聖な場所で、清らかな歌声を聴いた観客の多くは、十分に心を癒されたことだろう。

 

20175 19日、厳島神社高舞台)(城所美智子)