クレーンで海上につるした巨大なスクリーンで映画を上映する「うみぞら映画祭2017in淡路島」が19日から21日まで、兵庫県洲本市の大浜海水浴場とその周辺であった。淡路島を舞台にした映画など、5本の長編映画と3本の短編映画が上映された。
この映画祭では、メーンとなる大浜海水浴場(海の映画館)のほか、1013年に映画館としての営業を終了し、現在は貸しホールとなっている「洲本オリオン」(レトロ映画館)と洲本市文化体育館(ホール映画館)の3カ所で映画が上映された。昨年9月に引き続き2回目の開催となる。
19日午後5時半から大浜海水浴場で開かれたオープニングセレモニーは、映画祭のテーマソング「星のある場所」を歌った男性デュオ「にこいち」のライブでスタートし、竹内通弘洲本市長がスピーチした。続いて、映画『あったまら銭湯』に出演した女優の松原智恵子とヒロインオーディションで選ばれた南あわじ市出身の中尾萌那がゲストとして舞台あいさつを行った。その後、『あったまら銭湯』と『モアナと伝説の海』が海上のスクリーンで上映された。
20日は、洲本オリオンで午前10時から淡路島短編映画祭の優秀作品を上映した。上映されたのは、洲本商工会議所青年部が制作した淡路島をテーマにした音楽映像「Takarajima」、島の食材で薫製作りを楽しむ「島の部活」の紹介、4月に南あわじ市の福良地区で開催された春祭りのようすを撮影したドキュメンタリーの3本。

午前11時からは、この映画祭の主宰者でもある大継康高監督の『あったまら銭湯』が上映された。この劇場の観客席は99席あるが、上映開始時にはほぼ満席となり、補助席が並べられるほどの盛況ぶりだった。このあと、洲本オリオンでは午後1時半から淡路島を舞台にした『瀬戸内少年野球団』(篠田正浩監督)を上映した。
洲本オリオンのロビー
会場では映画祭オリジナルのタオル(1500円)やクリアファイル(300円)などが販売されている
一方、別の映画上映会場となっている洲本市文化体育館は体育館やホール、会議室などが設置された複合施設だ。映画の上映は席数548席の文化ホールで行われた。
今回の映画祭のゲストで『あったまら銭湯』にも出演している松原智恵子が主演した『ゆずの葉ゆれて』(神園浩司監督)が午後1時から上映され、終映後には松原が舞台あいさつで登壇した。この映画は鹿児島の農村を舞台に、老夫婦の思いに触れて成長していく少年の姿を描いている。
松原は「鹿児島の言葉を覚えるのが大変でしたが、食べ物に関しては満足しました」と食べ物好きの一面をのぞかせた。特にカツオのたたきが美味しかったそうだ。夫婦を演じた津川雅彦とは「日活時代から知っている仲なので、自然に入っていけました」と撮影当時を振り返り、淡路島については「みなさん『あったまら銭湯』みたいに温かくて、親切な人が多いです」とコメントした。
午後3時半からは、老人ばかりのアマチュアオーケストラを舞台に、淡路島出身の俳優・笹野高史が出演した『オケ老人!』(細川徹監督)が上映された。
大浜海水浴場では、夕刻からの映画上映に先立ち、浜辺に併設された音楽ステージで、午後12時半から「うみぞら映画祭2017」が開催された。2016年の秋に「淡路島レディオ音楽祭」を手掛けた淡路島レディオがステージをプロデュースし、そのときの音楽祭に出演した島内のバンドが演奏やパフォーマンスを披露した。
20日は淡路島の地元アーティスト5組が出演、午後5時10分からは結成20周年を迎え、日本最古の青春パンクバンドの異名をとる「ガガガSP」がこの日のトリを務めた。ガガガSPは『あったまら銭湯』の主題歌などを担当し、メンバーが同映画に出演もしている。ライブでは同映画の主題歌「時代はまわる」や挿入歌「線香花火」などを熱唱した。21日は、午後2時から5組のバンドとタヒチアンダンスグループが出演した。

浜辺には木製のベンチが用意されているが、多くの観客は砂浜にレジャーシートなどを敷いて座り、飲食をしたりしながら、楽な姿勢で映画を鑑賞することになる。映画は午後6時半からの上映開始が予定されていたが、その時間は日没前で映画を見るにはまだ少し明るい。そのため、上映開始は午後7時からに繰り下げられた。
上映開始直後は、若干周囲が明るいと感じられたが、海上のスクリーンに映し出されている映画と、スクリーンを包み込むように存在する夕焼け空とさざ波が次第に調和していく。浜辺に設置されたスピーカーから出される音響は映画館に比べても遜色のないものだった。かすかに聞こえる波の音が映画に彩を添える。
午後7時に開始された1回目の上映が終る頃には周囲はすっかり暗くなった。5月中旬の海岸は若干肌寒いものの、映画を鑑賞する環境としては心地よい。
翌21日の映画上映スケジュールは上映作品、上映会場ともに20日と基本的に同じだ。水上の大きなスクリーンで映画を鑑賞することができるのは現在のところ、この「うみぞら映画祭」だけだ。3日間、天候にも恵まれ、参加者たちは新しい映画体験を楽しんだに違いない。
(2017年5月20日、兵庫県洲本市大浜海岸)(矢澤利弘)