image1

 
「仕事帰りに気軽にクラシックを」をコンセプトにした「くららしっくこんさーと」の第1回目が31日、広島県東広島市の東広島芸術文化ホールくららサロンホールであった。バイオリニストで読売日本交響楽団主席奏者の瀧村依里がウィーン留学時の思い出の曲を中心に全9曲を演奏した。
 
エルガーの「朝の歌」を皮切りに、2曲目のピチカートと弓の演奏が交互に出てくるクロールの「バンジョーとフィドル」を披露。続いて、クライスラーの「シンコペーション」、「愛の悲しみ」、「中国の太鼓」の3曲を演奏した。

瀧村は2011年から2年間ウィーン国立音楽大学大学院に留学している。「豪華絢爛な劇場で演奏されるウィーンフィルのニューイヤーコンサートを幼い頃からテレビで見て、ウィーンはきらびやかな所とイメージしていた。しかし、実際に住んでみると、素朴な雰囲気の田舎町でゆるやかな空気が流れており、暮らしやすかった。ウィーンでバイオリンを学んで、ウィーンの作曲家であるクライスラーのことがますます好きになった。『シンコペーション』はウィーンの程よい雰囲気、『愛の悲しみ』は歌心があふれているところを感じてほしい。『中国の太鼓』では、ヨーロッパ人が遠くアジアを旅して感じたインスピレーションを想像してほしい」と曲への思いを語った。
 
後半の6曲目は、モンティの「チャルダッシュ」。「ウィーンの『ホイリゲ』と呼ばれる居酒屋に行った際、チップで演奏するバイオリンとアコーディオンの奏者が回ってきた。急遽バイオリンを借りて、アコーディオン奏者と二人でこの曲を演奏したら、出会ったばかりで国籍も違うのに、いい音楽を作り出すことができた思い出がある」と瀧村は語り、東京芸術大学で後輩だった内門卓也のピアノと息もぴったりに熱演した。
 
7曲目は、マスネの「タイスの瞑想曲」。瀧村は「コンサートではこの曲単独で演奏することが多いが、本来はオペラの中の1曲で、オーケストラのコンサートマスターがソロで演奏する曲。ウィーンフィルのコンサートマスターの演奏を聴いたときには、感動のあまり涙を流した」と思い出を話した。
 
最後はラヴェルの「ツィガーヌ」。「バイオリニストにとっては避けて通れない難曲で、約10分のうち冒頭4分がバイオリンソロ。バイオリンはわずか4本の弦で、ピアノの半分ほどの音域しか出ない楽器であるが、それを駆使してどのような音楽を作り出せるのか挑戦する」との意気込み通り、観客がこれまでよりも一段と集中し、息をひそめてじっと聴き入るような雰囲気を作り出した。
 
アンコール曲はパラディスの「シチリアーノ」。パラディスはモーツァルトと同時代を生きた盲目のピアニストである。「この曲を演奏する時はいつも心の中に温かい光を感じる。目を閉じて聴いてみてほしい」と語り、観客は1時間余りの演奏を最後までじっくりと楽しむことができた。
 
500円でワンドリンク付き。コーヒーなど飲み物を片手にゆったりとした気分で、本格的なクラシックを楽しめる企画だった。

 
(2017年5月31日、広島県東広島市の東広島芸術文化ホールくららサロンホール)(城所美智子)