デビュー40周年を迎えたベテランのバイオリニストの大谷康子と2010 年ジュネーブ国際コンクールで優勝し若手実力派として注目されているピアニストの萩原麻未のコンサートが9日、広島市西区民文化センターであった。エルガーの「愛の挨拶」を皮切りに全11曲を披露した。


大谷は「萩原さんはトップ中のトップのピアニスト。高い技術力はもちろん、その演奏には歌を感じさせる。今日は音楽の素晴らしさを伝えられるような演奏をしたい」と冒頭であいさつした。


2曲目は 広島出身の作曲家中村暢之の「Intermezzo- 間奏曲」。中村と大谷は大学時代の同級生で、この曲は大谷が中村に委嘱し、作られた新作だ。中村が舞台にあがると、大谷は感極まり、「深く、ロマンティックな曲を作ってもらい嬉しい。これからいろいろな機会にこの曲を弾いていきたい」と涙ぐみながら語った。


3曲目はプーランクのバイオリンとピアノのためのソナタ「ガルシア・ロルカの思い出に」。ガルシア・ロルカはスペインの詩人で、詩の内容が反体制的であるとして、1936年処刑された。プーランクは尊敬するガルシア・ロルカを偲びこの作品を作った。大谷は、演奏の前に曲について解説。第三楽章で、バイオリンが叫ぶような音を鳴らした後、ピアノが打ちのめされるように半音階で下降していくところを抜き出して演奏し、その部分がガルシア・ロルカの最期の場面だと考えられている、と観客に伝えた。 不安定な感じや哀愁、怒り、恐怖、絶望を、大谷の繊細なバイオリンと萩原の力強いピアノの演奏で見事に表現した。


4曲目は2週間前にウクライナの首都キエフで開かれた音楽祭で、キエフ国立フィルハーモニー管弦楽団と大谷が共演した時のアンコール曲だ。ロシアと紛争が続くウクライナでは、今も毎日犠牲者が出ており、街中の至る所に犠牲者を追悼する写真が飾られている。大谷が、オーケストラから譜面を渡されたそのアンコール曲は、紛争の犠牲者を追悼するための曲で、ウクライナの第二の国歌とも言われている。哀しく美しい旋律の一部をバイオリン 1本で奏で、ウクライナで続く紛争を観客に紹介し、平和都市広島の重要性を説いた。


5曲目と6曲目はチェロの笹沼樹が演奏に加わり、チェロの低音の響きの魅力を発揮した。 5曲目はチェロとピアノでホッパーの「ハンガリー狂詩曲」、6曲目はバイオリン、チェロ、ピアノでクライスラーの「ウィーン小行進曲」を演奏した。


7曲目は、サラサーテの「チゴイネルワイゼン」。大谷はこの曲を3千回以上弾いていると言う。大谷は「たくさんの要素が織り込まれたよくできた曲で、サラサーテに感謝しながら弾いている。しんみりした感じ、わくわくした感じ、いろいろな場面を想像しながら聴いてもらいたい」と語った。超絶技巧を駆使した見事な演奏に、会場からはブラボーの掛け声と一層盛大な拍手が送られた。


休憩後の後半は、フランスの作曲家の作品が続いた。8曲目はマスネの「タイスの瞑想曲」、9 曲目はフランクの「バイオリン・ソナタ」。フランクの「バイオリン・ソナタ」は、バイオリンとピアノの息がぴったり呼応しあい、劇的なラストまで駆け抜けた印象だ。萩原のピアノも圧巻。


アンコールは、フォーレの「夢のあとに」とモンティの「チャールダーシュ」。「夢のあとに」は美しくしっとりと聴かせた。「チャールダーシュ」では、大谷が会場後方からステージに向かって、客席の間を歩きながら演奏するサービスを見せた。観客も拍手で演奏を盛り上げ、2時間を超える演奏会は熱気に包まれて幕を閉じた。


2017年6月9日、広島市西区民文化センター)(城所美智子)