イタリアのイ・ムジチ合奏団が来日し、全国8カ所でコンサートツアーを行っている。5日は広島市中区の広島平和記念公園にある広島国際会議場フェニックスホールで公演を行ない、看板曲ヴィヴァルディの「四季」など全13曲を熱演した。

前半のプログラムは「舞曲」7曲。ブラームスの「ハンガリー舞曲第1番、第5番」、グリーグの「ペール・ギュント」から「アニトラの踊り」、ドボルザークの「2つのワルツ」、ハチャトゥリアンの「剣の舞」、武満徹の「他人の顔」から「ワルツ」、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」を披露した。「アニトラの踊り」は、静かなピチカートとトライアングルの音色と、アントニオ・アンセルミのバイオリンのソロが美しいハーモニーを織りなした。

後半はいよいよヴィヴァルディの「四季」だ。春、夏、秋、冬の全曲を演奏した。「四季」には各楽章それぞれに「ソネット(14行詩)」が付記されており、その詩の内容を音楽化している。最も有名な「春」の第一楽章のソネットは次の通り。

「春が来た。鳥たちが快活に歌って、春を迎える。泉はそよぐ西風を受けて、なごやかに流れてゆく。春のはしりの嵐が静まると、ふたたび鳥たちの歌が始まる」

イ・ムジチ合奏団の作り出す音楽は、この詩の情景を彷彿とさせるもの。アントニオ・アンセルミのバイオリンの音色は本物の鳥のさえずりが聴こえるような臨場感を醸し出す。雷が鳴るようす、風が吹き荒れるようす、そしてまたおだやかな春の日差しが戻って来るようすなどがまざまざと表現されていた。イ・ムジチ合奏団といえば「四季」と評されるだけのことはあり、もっと長い時間聴いていたいと思わせる名演奏だった。

アンコールは、ヴィヴァルディの「弦楽のための協奏曲アレグロ」、ピアソラの「リベルタンゴ」、山田耕作の「赤とんぼ(イ・ムジチ編)」。特に赤とんぼは、バイオリンとチェロとチェンバロが、美しく物悲しいメロディーを絶妙に表現し、演奏が終わったときには会場は一瞬静まり返り、続けて大きな拍手が送られた。

アンコールの3曲が終わっても拍手は鳴り止まない。それを受けて、コントラバスのロベルト・カンビオーリが一度舞台袖に持ち帰った大きな楽器を持って、再び舞台に登場。その他のメンバーも舞台に戻り、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲、ヴィヴァルディの「弦楽のための協奏曲「アラ・ルスティカ」第3楽章」の2曲を披露した。30分以上に渡る全5曲のアンコールの熱演に、観客は総立ちで拍手を送り、コンサートは熱気に包まれて幕を閉じた。

イ・ムジチ合奏団は65年前の1952年にローマのサンタ・チェチーリア音楽院出身者が結成した弦楽合奏団。当時、イタリア国外ではほとんど知られていなかったヴィヴァルディの「四季」を世界で初めて録音し、2500万枚以上を売り上げた。以来、メンバーを入れ替えながらも、ヴィヴァルディの「四季」を看板作品に、バロックから現代音楽までレパートリーを広げ、人気を集めている。合奏団の編成は、バイオリンが、アントニオ・アンセルミを中心にした6人、ビオラ2人、チェロ2人、コントラバス1人、チェンバロ1人の合計12人。

(2017年7月5日、広島市中区、広島国際会議場フェニックスホール)(城所美智子)

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会場となった広島国際会議場


image広島平和公園