好きであっても嫌いであっても、自分の隣人とは付き合っていかなければならない。アサフ・ポロンスキー監督の『喪が明ける日』は、ユダヤ教の喪「シヴァ」を題材に、息子を亡くした夫婦の悲しみと再生をユーモアを交えつつ静かに映し出した人間ドラマである。

息子を亡くしたエヤル(シャイ・アヴィヴィ)とヴィッキー(エヴゲニア・ドディナ)夫妻の喪は明日で終わりだ。だが、エヤルの心は沈んだまま。息子の医療用大麻で憂さ晴らししようとするが、使い方が分からず、隣の息子ズーラー(トメル・カポン)に教わることする。エヤルは隣家の夫妻を快く思っていない。だが、彼の心の扉を開いたのは、隣人の息子だった。

隣人との争いと和解をテーマにしたイスラエル映画というと、イスラエルとパレスチナの問題が思い浮かぶかも知れない。だが、この映画で描かれるのはあくまでもイスラエルに住む人々の隣人たちとの「日常」。政治的なテーマやメッセージは皆無だ。実際、ポロンスキー監督自身も、パレスチナ問題については、「脚本段階でも撮影でも意識したことはない」と断言する。ただ、主人公一家の自宅の隣人や息子の墓地の隣に埋葬された隣人など。この映画にでてくる隣人たちは悩みの種であると同時に、彼らの心の救いとなる存在でもある。よくよく考えると、この映画の「隣人」というものは、パレスチナ問題のメタファーにも思えてきてしまうのだ。こうした背景を監督が潜在的に意識していたということまでは否定できないだろう。

登場人物の一人がエアギターで踊り狂うシーンなど、即興的な演出にみえるシーンも多い。ただ、カメラの配置や動きなどを見ると、全編に渡って実に計算されたショットの積み重ねであることが分かる。撮影に入る前にも、ポロンスキー監督は撮影監督とロケ地を訪れ、撮影プランを組み立てていった。「徹底的に準備をするのが好き」だという。撮影は23日間。脚本完成まで5年かかった。長年練った脚本で、最後の1年は無駄を削ぎ落としていく作業に注力した。

ラスト近く、登場人物の一人が亡くなった妹に対して悼辞を述べるシーンがある。これは、実際に、亡くなった妹に対して父親が捧げた本当の追悼文を修正して使っている。思わず、涙がこぼれそうな場面だ。国や宗教が違っても、人の心は変わらない。


(2017年7月17日午前10時半、SKIPシティ映像ホール)(矢澤利弘)