9日間にわたり埼玉県川口市で開催されていたデジタル映画に特化した映画祭、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017」が23日、閉幕した。デジタルで撮影・制作された映画の振興などを目的として2004年から始まったこの映画祭も14回の開催を数えるまでに継続してきた。
創設当初はまだ一般的とは言えなかったデジタルシネマだが、現在ではデジタル撮影・制作が広く普及し、決して珍しいものではなくなった。だが、こうした背景も、この映画祭の存在意義を失わせるものではない。それは、この映画祭が新たな映像クリエイターの才能の発掘と支援に大きな役割を果たしているからだ。特に発掘だけでなく、支援という面で、受賞者のその後の映画制作をサポートしたり、受賞作の劇場公開を支援するという手厚い制度はこの映画祭の特徴である。
もっとも、デジタルシネマも完成型ではない。今年は「Dシネマ−新たなる潮流」と題して、国内外のVR(バーチャルリアリティ)の作品を実際に体験することのできる企画や関連セミナーを開催したのも、今後のデジタルシネマの展開方向を考えていく上で意義のあるものだった。
この映画祭の中核となる長編コンペティション部門には600本を超えるエントリーがあり、ノミネート審査を経た12作品が上映された。10人以上ものノミネート審査員がチーム編成を取り、数度のステップを経て上映作品を選ぶのがこの映画祭の仕組みであり、毎回、バラエティに富む質の高い作品を選出してきた。
今回のノミネート作品はネパール映画、アルメニア映画、ハンガリー映画、スロバキア映画、イスラエル映画など、多様な国からの作品が上映された。ただ、内容面についてみると、貧困問題や死、親子の断絶などを題材にした概して重いテーマの作品が大部分を占め、例年のノミネート作品群に見られるような多様性がなかったのが残念だった。
特集「飛翔する監督たち」では、この映画祭出身で現在活躍する監督たちの旧作を上映した。これは回を重ねるにつれて、この映画祭の特徴である新人育成機能が発揮されつつあることを示すもので、この映画祭の成果を再確認できる企画だった。
全体としては例年通り、子供向けの野外上映や子供たちの制作した映画の上映、盆踊り、夜店といった地域密着型のイベントも開催され、広い観客層を意識した映画祭運営をしているのがわかる。
次回、2018年に開催される映画祭は15回目の節目となる。どのような作品が集まるのか、そしてどのような企画が展開されるのか、期待したい。
(2017年7月24日)(矢澤利弘)