映像関連の博物館の中でも、映画制作の教育に重点を置いているのが埼玉県川口市のSKIPシティ内にある映像ミュージアムだ。映画作品や映画の歴史ではなく、映画の原理から始まり、映画制作の各プロセスを解説、紹介する体験型の展示を軸に構成されている。
展示の冒頭は、基礎的な映像の原理の解説だ。パラパラ漫画から始まり、ソーマトロープ、フェナキスチスコープ、ゾートロープといった初期の映像装置を、来館者は実際に手でハンドルを動かしながら体験することができる。
続いて、映像の歴史について、映画の発明以前と映画の発明以降に分け、年表を使って解説しているコーナーがある。
また、フイルム映像とテレビ映像との原理的な違いと仕組みについて、実際の機材を展示しながら説明している。
一通り、映像の原理を理解した後は、実際の映画制作のプロセスの説明に入って行く。映画制作の流れに従って、企画・演出、美術、撮影・照明、編集、サウンドといったそれぞれのパートの仕事が紹介される。
企画・演出のセクションでは、まず日本の代表的な映画監督を顔写真と資料で紹介している。
「企画・演出」のセクションでは、撮影に入る前の映画制作の仕事について紹介している。ゴジラなどのデザイン画が展示されている。
「美術」のセクションでは、映画の撮影で使用される大道具、小道具のサンプルが展示されている。 パリの街並みの美術セットが設置されており、実際の美術の仕事のイメージをつかむことができるようになっている。
「撮影・照明」のセクションでは、実際にテレビカメラを操作しながら、撮影の仕組みを理解することができるように工夫されている。移動撮影を行ったり、ボタンを押してカメラアングルを変え、写り方の違いをモニターで確認するなどして、カメラの位置や撮影方法がいかに映像作品に異なる効果を与えるかを体験することもできる。
「編集」のセクションでは、 シーンをつなぎかえることによって、ひとつのストーリーが別のストーリーになることをシミュレーションできる装置などが設置されており、来場者は、映像制作における編集の重要性を体感することができる。
「サウンド」のセクションでは、小道具を使って効果音を作ったり、アニメにセリフを録音するシミュレーションができる装置が用意されている。
また、VFXやCGといった視覚効果を学べるセクションでは、大道具の自動車に乗り、実写合成でドライブシーンを撮影するコーナーやアニメーションを作るコーナー、モーションキャプチャーでゲームに挑戦できるコーナーが用意されている。
映画の撮影現場のジオラマでは、映画制作ではどのような役割のスタッフがいて、どのような仕事をしているのかを知ることができる。
2階の映像学習ゾーンはここまで。3階の映像制作ゾーンには3つのスタジオがある。一番広い301スタジオでは、ブルーバック合成で、空飛ぶ魔法のじゅうたんで恐竜の世界や世界一周旅行を体験することのできるプログラムが用意されている。
また、実際にアナウンサーやお天気キャスターを体験できるプログラムもある。マルチメディアコーナーでは、パソコンを実際に使用しながら、子どもたちが映像制作を学ぶワークショップが定期的に開催されている。
企画展のスペースでは、期間限定で企画展示が催されている。この日は「大おじゃる丸博」が開催されていた。
この博物館では、原則として写真撮影を禁止しておらず、むしろ来館者に積極的にSNSなどへ情報発信をしてもらえるような工夫をしている。
このミュージアムは、映画研究者や大人向けではなく、主に若年層を対象にした映像制作の基礎を学ぶための施設である。展示の表記は英語対応していないが、子供向けであることを考えれば不満はない。じっくりと展示を見ていけば、映像作りの楽しさを感じることができるはずである。映画史や特定の映画人をテーマにした映画資料館は少なくないが、映像クリエイターを育成することを念頭に置いた施設はあるようで少ない。その点で、このミュージアムの果たす役割は大きい。
(2017年7月15日、SKIPシティ映像ミュージアム)(矢澤利弘)