広島県尾道市瀬戸田町の瀬戸田サンセットビーチで11日から開催されていた野外映画祭「瀬戸田映画祭」が3日間の会期を終え13日、閉幕した。この映画祭は今年で6回目。瀬戸内海にある生口島と高根島の様々な場所を使った野外映画祭だ。家族で楽しめる映画から若手監督の映画まで、「島とまるごと映画する」をテーマに、2012年から開催されてきた。映画の上映だけではなく、映画作りのワークショップや、瀬戸田の名物を提供する出店、音楽ライブやキャンプ、サイクリングツアーなどのアクティビティも用意された。

今年の映画祭の上映会場となった瀬戸田サンセットビーチはこの時期、海の家もオープンし、海水浴客でにぎわいを見せる。また、キャンプ場も併設されている。本州からは自動車でしまなみ海道を走ってくるか、船の場合は、尾道港から約40分、三原港からは約30分で瀬戸田港へ。瀬戸田港からバスで5分で瀬戸田サンセットビーチに到着する。





開催初日の11日は、開場時刻の午後5時に間に合うように着々と設営と準備作業が進められていた。スクリーンには、船の帆の生地でできた巨大な白布が使われている。





浜辺はサンセットビーチと名付けられている通り、夕陽に照らされた日没近くの海岸はまさに絶景となる。


開場時刻の午後5時になると受付が始まった。映画祭への入場は無料だ。

受付ではタイムテーブルの掲載されたチラシとアンケート用紙が配られた


夏の時期の午後5時は、野外で映画を上映するにはまだ明るい。そのため、上映開始の午後7時半まで、音楽のライブ演奏や映画制作のワークショップなどが催され、飲食ブースもオープンしている。

映画祭グッズのコーナーでは、ティーシャツやタオル、サコッシュと呼ばれるバッグ、缶バッジ、映画祭紹介を掲載した小雑誌など、ここでしか買えない限定商品を販売している。






キャンドルホルダーに絵を描いて、映画祭のオリジナルキャンドルを制作するコーナーもある。


映画制作ワークショップでは、フィルムに直接色を塗ったり、傷を付けたりするシネカリグラフィーという手法で映画制作を体験することができる。作った作品は午後7時半からの映画本編上映前に実際にスクリーンで毎日上映される。




フィルムに直接ペンで書いて作品を作る

ワークショップに参加した小学2年生の男子

音楽のライブには、生口島のとなりにある大三島で活動している「みかんバンド」やラップ音楽ユニットの「
ジョネミンゴ」、ギターソロの「MARK」の3組のアーティストが登場し、個性のある演奏を繰り広げた。



飲食ブースも出店。瀬戸田町のカフェ&バー「汐待亭」のブースでは、黒毛和牛スジの欧風カレーや、瀬戸田の天然イノシシの肉を使ったしましし焼肉丼、イノシシ肉を使ったキーマカレーという3品のメニューが用意されていた。店主のジョセフ竹さんと妻のiccoさんご夫婦は、関東を中心に音楽ライブ活動を行ってきたが、2015年に瀬戸田に移住、築およそ150年の日本家屋をリノベーションし、自転車カフェ&バーを営んでいる。12日にはMUSIC LOBBYとしてステージ上でライブ演奏を行った。



しましし焼肉丼


鉄板焼食堂とキャンプ場を営む「キッチンリタ」の出店では、リタ焼とり、とりたまライスなどが用意された。果肉を乗せたかき氷も好評だった。
果肉をのせた氷いちご


また、瀬戸田レモンを活かしたレモンカレーなどが屋台のメニューに並んだ。


いよいよ午後7時半となり、映画祭の代表である川本直人さんのあいさつのあと、ワークショップ作品の上映が始まった。

ピラミッドのような塔から映画を上映する


上映開始時に若干の機材操作トラブルがあったが、小学校2年生の男子が作った1分12秒の作品など、映画制作ワークショップで作られた映画が編集されて上映された。



休憩をはさんで、シネカリグラフィーでひたすら海という字をフィルムに刻みつけて作られた角南誠監督の『船出』、実写とシネカリグラフィーを組み合わせた映画祭の主催者でもある川本直人監督の『潮汐の窓』、被爆体験者をテーマにした白石慶子監督のアニメーション『ホウセンカおじいちゃん』、穴掘り勝負という奇妙な世界を描いた矢川健吾監督の『穴を掘る』が続けて上映された。最後は孤独な男女の出会いを描いた須藤彰監督の『ECHOS エコーズ』が上映されて映画祭初日は終了した。

12日は、午後5時から「たけも」の音楽ライブ、「尾道デニムプロジェクト」のトークイベント、「MUSIC LOBBY」の音楽ライブがあり、午後7時半からワークショップ作品の上映と、篠田正浩監督の『瀬戸内少年野球団』の特別上映があった。

13日は、午後5時から「タケシィ」と「Alter Ego」のライブの後、午後7時半からワークショップ作品の上映と、相米慎二監督の『台風クラブ』の特別上映があり、映画祭は閉幕した。


瀬戸田映画祭の経緯

瀬戸田映画祭は、瀬戸田高校出身の映画監督川本直人さんが2012年10月に立ち上げた第1回さきがけ瀬戸田映画祭から始まった。その年度で廃校になる南小学校から「記憶に残るイベントをしたい」との要請を受け、同校の校庭で映画上映会を催したのがきっかけ。校庭の裏にある海を背にしてスクリーンを設置、プロジェクターを海に向ける形で映画を映写した。

この映画祭は、各回ごとに上映場所や内容を変えてきた。海上へスクリーンを張ったり、大理石に上映したりなど、瀬戸田の特色や地形を活かした野外上映を行ってきたことが特徴のひとつだ。また、上映作品も「夏」「海」「島」などをモチーフとした作品を選定して上映してきたことも特徴だろう。著名な作品だけではなく、若手監督の作品も上映してきた。また、映画上映だけでなく、演劇の上演、音楽ライブ、飲食店の出店、映画制作ワークショップなど、小規模な映画祭ながら、バラエティに富んだ企画を続けてきている。

第1回の映画祭の会期は2日間。10月12日は南小学校の校庭でアニメ映画『ももへの手紙』と川本監督の『渦潮』、13日は瀬戸田市民会館で『新しきブーメラン』など4本を上映した。2013年の第2回映画祭でも南小学校で上映を行った。

2014年の第3回は8月8日から10日までの3日間の開催。8日は広島県立瀬戸田高等学校で嶺豪一監督の『故郷の詩』と島村和秀監督の『あおいちゃんの星座』(入場無料)、9日は午後7時半から旧南小学校校庭で園子温監督の『自転車吐息』(入場料500円)、10日は、大理石の庭園である耕三寺博物館「未来心の丘」で白い大理石をスクリーンにして午後7時半から川本直人監督の『渦潮』と『渦汐』、花岡梓監督の『昨日のきおく 今日のりんかく 明日のぼうきゃく』、木村達人監督の『stone meditation』、山本圭祐監督の『疾走ラブレター』の5本(入場無料)を上映した。

2015年の第4回は8月21日から23日まで。21日は
広島県立瀬戸田高等学校の体育館で、午後6時15分から演劇『海のWindows、夜のDoors』の上演、同校の中庭で午後7時15分から若手映画監督による映画3本『DOOLLA』『どろん』『みんな蒸してやる』を無料で上映した。22日には、瀬戸田サンセットビーチに会場を移し、午後7時15分から『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』、23日も同ビーチで午後7時15分から『ももへの手紙』を上映した。22日と23日の入場料は当日券で1200円。屋台も出店した。

2016年の第5回は8月12日から14日まで。瀬戸田サンセットビーチで、
12日は若手監督の短編作品、13日は岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』、14日は北野武監督の『菊次郎の夏』を上映した。

2017年で第6回を迎えた瀬戸田映画祭。手作り感を失わず、これからも長く続けて欲しい映画祭だ。


(2017年8月14日)(矢澤利弘)


工藤夕貴
2001-06-22