路上にある殺風景なトランスボックス。そこをアート作品の発表の場として活用し、街を明るく、楽しく演出しようとしているのが、東京都新宿区が取り組んでいる「歌舞伎町アートプロジェクト」のなかのひとつのプロジェクトだ。


花園通りのトランスボックスでは「富士山」、西武新宿駅前通りのトランスボックスでは「怪獣street」、職安通り・区役所通りトランスボックスでは「四季の道」をテーマにした作品が発表されている。ただ、都市の雑踏のなかのアートだけに、全く作品を認知せずに通り過ぎる人々が大多数なのもまた事実である。


この記事では花園通りと職安通り・区役所通りを実際に歩きながら、トランスボックスに描かれている作品を紹介していく。


まず、花園通り。新宿東宝ビル付近から区役所通りに向かって歩く。最初にあるのはサダヒロカズノリの「赤富士」だ。炎にような模様で覆われた富士山が描かれている。



引き続き、花園通りの歩道を歩いていくと蟹江杏の「Fuji」が現れる。



次がウタマロケンジの作品。


続いて、ソメヤケンジの「太陽の女神はフジヤマを見守る」。メッシュレリーフに加筆した作品だ。


松本里美の「金環日食」では、作品の前に駐輪禁止のパイロンが無造作に置かれていた。


ここまで、花園通りのトランスボックスアート全5作品を見てきた。続いて職安通りと区役所通りの「四季の道」がテーマのトランスボックスアート12作品を道に沿って見ていきたい。

まずは大久保公園近くの作品から。これは鈴木猛利の「春夏秋冬」。白と黒の世界から、鮮やかな世界が生まれますように。


蟹江杏の「四季の花達」は明るい作品だ。美しい花達は次々に日本の四季を彩る。溢れる花びらは私たちを癒す。前面には自転車が駐輪していた。


ウタマロケンジの「鳥ひとつ 濡れて出けり 朝さくら」は、葛飾北斎作「鷽に垂桜」と満月をモチーフに全国にお祭り画像で表現している。


中野真紀子の「ももももダンシング!」。陽気なお囃子に合わせて2人は夜な夜な踊り明かす。


富田菜摘の「でんでん」。金属廃材で作ったカタツムリを撮影し、水彩で描いた背景と合わせているのがユニークだ。


Fujiyoshi Brother'sの「Purple Bambi & Gold Flowers」。蓮の花が咲きはじめ、子鹿の心も踊り出す。作品の下方に落書きがある。


山口健児の「彼岸花」。彼岸花は秋の訪れを教えてくれる。子供の頃も、今も、きっと未来も。


東學の「蓮」。天国と地獄を蓮の葉と花で表現している。


門馬美喜の「覆」。氷柱、雪が降り積もった木の枝が全てを飲み込もうとしている様を描いている。作品の上方に落書きがあった。


サダヒロカズノリの「雪吊り △ Yukitsuri」。雪の重みで折れる枝を、縄で支える冬の風物詩「雪吊り」を描いた。


清家正悟の「秋〜満月の輝く夜には〜」。うさぎ達の作った団子をたくさん食べてくじら君のナイトクルージングへ、がコンセプトの作品だ。


永野徹子の「夏のはじまり」。暑い季節もヘチマの大きな実がなっているのを見ると楽しくなる。


以上が「四季の道」をテーマにした12作品。

最後に歌舞伎町公園内にある東學による「弁財天天地龍虎」を紹介する。




公園内にある弁財天の左右と下部の白い壁面に龍と虎が描かれている。

この記事では、新宿歌舞伎町を実際に歩き、トランスボックスを発表の場にしたアートの一部を見てきた。美術館やギャラリーで仰々しく展示されている額に入れられた絵画だけがアート作品ではない。身近な空間にあるまち中アートもアート作品である。ただ、多くの人々はそれに気が付かないようだ。

都市の街中にある一般的なトランスボックスには落書きがされていたり、ステッカーが貼られたりしていることも多い。
今回はトランスボックスアートを17作品見てきた。いくつかの作品の前には自転車が駐輪されていたりはしたが、作品の表面に落書きがされていたり、ステッカーが貼られたりしたものは皆無だった。逆説的な話だが、おそらくトランスボックスにステッカーを貼ったり落書きをしようと企てる人々にこそ、これらがアートだときちんと認識されたのではないだろうか。

もし、歌舞伎町を歩く機会があったら、ぜひトランスボックスにも注目して欲しい。


(2017年8月27日)(矢澤利弘)