遠い将来のことだと思っていたことが予想以上の速さで現実社会に近づいてきていると感じたことはないだろうか。トルコのセミフ・カプランオール監督の『グレイン』は、近未来の物語を通して、現代社会の矛盾に対する見る人々の意識を覚醒させる。

この映画には難民問題、地球温暖化、遺伝子組換え作物、国境の壁など、今日的なテーマがちりばめられている。2011年から2012年頃に脚本を書き始め、近い将来、こういうことがあるかも知れないということを盛り込み、脚本完成までには5年を要した。ロケ地の選定にも長い期間がかかり、撮影には1年かかった。「農業にも様々な問題が起こり始め、思っていたよりも早く現実になっていった」とカプランオール監督は振り返る。

近未来。種子の遺伝学者であるエロール・エリン教授は、磁気壁によって守られている都市に住んでいる。その都市の農業は遺伝子操作で成り立っているが、原因不明の遺伝子不全に見舞われて壊滅状態になってしまう。エリンは、同じ研究者のセミル・アクマンがかつて遺伝子改良の不可能性を指摘していたという話を知り、彼を探す旅に出る。それは、電磁壁を乗り越えて、危険な外界に出る旅の始まりだった。

この映画には荒涼とした風景が描かれている。荒廃した雰囲気のビジュアルが素晴らしい。映画の舞台として最適な場所を求めて、米国のデトロイト、トルコのアナトリア、そしてドイツなど世界中でロケ撮影を行った。そうしたバラバラな地域で撮影したものを、ひとつにつなげて、あたかも近隣の地域であるかのように見せるという目的もあり、この映画はモノクロで処理されている。それが、映画全体に無国籍な雰囲気を醸し出している。

撮影は英語で行われ、国際的なキャストが集まった。エリン教授を演じたジャン=マルク・バールは「撮影はエキサイティングで、スピリチュアルな体験をした。映画は娯楽性が高いものが多いが、カプランオール監督は作品を通じて世界中の意識を変えようとしている。映画にメッセージを持たせることが重要だ。私が演じた教授は意識を変えている途中の人物だ」と主人公を演じた思いを吐露した。

この映画が描くのは近未来だが、未来世界の出来事を描くというよりはむしろ、内なる精神世界への旅に主軸が置かれている。例えばキューブリックの『2001年宇宙の旅』やタルコフスキーの『惑星ソラリス』などに近い。そういった意味で、頭を使う映画であり、漫然と見ていると話がよく分からなくなる。賛否両論がありそうな作品だ。


(2017年10月30日午前10時5分、東京国際映画祭)(矢澤利弘)






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