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「まさかこんな大きな劇場でかけてもらえるとは思わなかった」。『サッドヒルを掘り返せ』のギレルモ・デ・オリベイラ監督は東京国際映画祭の質疑応答で2日、このように話し始めた。

『サッドヒルを掘り返せ』は、マカロニ・ウエスタンの名作『続・夕陽のガンマン』(セルジオ・レオーネ監督)の有名な墓地のラストシーンが撮影されたスペイン山間部のサッドヒルを舞台に、ロケ現場を復元しようとするファンの熱い想いを描いたドキュメンタリーである。彼らの熱意は『続・夕陽のガンマン』の制作に関わった人々をも巻き込んでいく。やがて映画の50周年記念のイベント企画が立ち上がり、ファンたちの夢が実現する。

オリベイラ監督はもともと映画オタクで、旅行に行く度に旅行先でロケした映画の写真を持ち歩いてロケ地に行くのが好きだった。ある日、友人がラジオを聞き、『続・夕陽のガンマン』のロケ現場となった墓地を掘り返すプロジェクトがあるということをオリベイラ監督に伝えた。その時は、まさか本当にそのプロジェクトが実現するとは思わなかったそうだ。

プロデューサーのルイザ・カウエルによると、最初はYouTubeにアップするぐらいの映画にしようと思っていたが、どんどんと規模が大きくなっていった。監督から、関係者にインタビューしようという話が持ち上がり、しまいにはクリント・イーストウッドにまでインタビューをお願いすることになった。何度も何度も電話をし、最後にはストーカーのようになった。実際、イーストウッドを捕まえるまでに9カ月を要した。最初の頃は、イーストウッドは、この発掘プロジェクトのことを知らなかった。プロデューサーが、イーストウッドの代理人やアシスタントに連絡しているうちに、イーストウッドがこのプロジェクトを知るところとなった。イーストウッドは情にほだされてインタビューを受け入れてくれたのかも知れない。ともかく、クリント・イーストウッドのインタビューは50年記念イベントのわずか7日前に行うことができた。

この映画には、『続・夕陽のガンマン』の音楽を担当したエンニオ・モリコーネ、ヘビーメタルバンドのメタリカのボーカリスト兼ギタリストのジェイムズ・ヘットフィールド、そして、主演のクリント・イーストウッドなどの著名人が登場し、証言を加えていく。

この映画の冒頭は、メタリカのステージから始まり、意表を突かれる。クライマックスシーンは最初に撮影を済ましており、それに向けて映画が収斂していくような映画の構成が見事だ。

映画を愛する者たちの夢が凝縮した作品であり、まさに草の根からのロケ地復興である。映画を愛するすべての者たちの涙を誘う作品の登場だ。


(2017年11月2日午後13時40分、東京国際映画祭)(矢澤利弘)

写真:(c)Zapruder Pictures 2017.