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約300年前のイタリアのバイオリン製作者、アントニオ・ストラドヴァリ(1644〜1737)とグァルネリ・デル・ジェス(1698〜1744)の手による名器を、世界的バイオリニストの堀米ゆず子と古澤巌が奏でた。 

「ポポロでバッハを弾く」と題した2回シリーズのバイオリンコンサートが広島県三原市にある音楽ホール、ポポロで行なわれ、バッハの無伴奏バイオリンソナタパルティータ全6曲が披露された。無伴奏とある通り、バイオリン奏者がたった一人で演奏するスタイル。多くの観客が会場に詰めかけ、バイオリンの中でも2大名器と言われるストラドヴァリウスとグァルネリ・デル・ジェスの深く豊かな響きを楽しんだ。

2回シリーズの第1弾は2017年11月26日に行われた「堀米ゆず子グァルネリ・デル・ジェスを弾く」だった。曲目は、バッハの「無伴奏バイオリン・パルティータ第3番」、「無伴奏バイオリン・パルティータ第1番」、「無伴奏バイオリン・ソナタ第3番」、アンコールに「無伴奏バイオリン・ソナタ第1番アダージョ」。

黒いドレス姿の堀米は一言も語らず、すべて暗譜で淡々と力みなく正確無比とも言える音程、巧みな技術で、バッハの難曲を最後まで弾ききった。まさに圧巻の印象だ。使用楽器は1741年製のヨゼフ・グァルネリ・デル・ジェス。約300年前に作られたとは思えないほど光沢を放ち、美しい響きを持つ。

第2弾は14日「古澤巌サン・ロレンツォを弾く」。曲目は、バッハの「無伴奏バイオリン・ソナタ第1番」、「無伴奏バイオリン・ソナタ第2番」「無伴奏バイオリン・パルティータ第2番」、アンコールに「無伴奏バイオリン・ソナタ第3番ラルゴ」。使用楽器は宗次コレクション所蔵の1718年製ストラドヴァリウス・サン・ロレンツォ。

古澤はトレードマークの帽子とスカーフに、黒のスーツ姿で登場。「何か話しをしないと演奏がすぐに終わってしまいそう」ということで、曲と曲の合間には、師事した巨匠ミルシテインの思い出や、自身が現在出演するテレビ番組「旅するイタリア語」のイタリア収録時のエピソードなどを披露した。

古澤は「雅楽の東儀秀樹、アコーディオンのcobaとユニット『TFC55』を組んで音楽活動を行なっており、千年以上の歴史を持つ雅楽に触れる機会があるが、それに比べれば、300年前に作曲されたバッハの曲は、むしろ新しく感じられる」と語った。「『ポポロでバッハを弾く』は1年以上前から企画され、コンサートに向けてバッハの曲にあらためて取り組んできた。

普段からバッハの曲を練習すればよいのにと思われるだろうが、コンサートではにぎやかな曲を弾くことが多く、また、切羽詰まらないと練習しないほう」と語った通り、練習の苦労が忍ばれる演奏だった。終演後は握手会が行なわれ、多くの女性ファンが列を作り、古澤の人気ぶりが伺えた。


(2018年1月14日、広島県三原市、三原芸術文化センターポポロ)(城所美智子)