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景観を活用した映画祭「栃木・蔵の街かど映画祭」が12日と13日に栃木県栃木市の栃木高校講堂など、栃木市中心部の会場であった。映画祭初の試みとして、今年は視覚障害者や聴覚障害者向けのユニバーサル上映を行った。

映画祭は2007年に始まり、今回で11回目。とちぎフィルム応援団など市民団体でつくる実行委員会が主催している。栃木高校講堂のほか、山本有三ふるさと記念館、かな半旅館など10カ所で上映した。12日午前10時から栃木高校講堂であったオープニングセレモニーでは、はじめに松本篤哉実行委員長(両毛印刷社長)が挨拶した。

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松本篤哉実行委員長

栃木市内に点在する上映会場は歴史的建造物が使われている。松本委員長は「映画とともに歴史を感じて欲しい」と語った。大川秀子栃木市長の挨拶に続いて、中川和博監督の「さらば、ダイヤモンド」が上映された。

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大川秀子栃木市長

映画上映後には、栃木市出身の武井哲プロデューサーと中川監督がトークショーを行った。この映画はある男の親友に対する特別な感情を描いた作品だ。中川監督は「仕事の後輩がカミングアウトしたことがきっかけです。自分の心に嘘をついて生きていけるのかということを感じた」と作品の生まれた背景を説明、武井プロデューサーは「遅れてきた青春映画として作った」と補足した。

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中川和博監督(右)と武井哲プロデューサー(左)

栃木高校の講堂は、国登録文化財であり、歴代の校長の肖像画が掲げられるなど、歴史の感じられる建物である。

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栃木高校講堂内部

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栃木高校講堂の入り口付近

栃木高校講堂ではこの後、「この世界の片隅に」を日本語字幕・音声ガイド付きで上映した。

この映画祭は、市内に点在する複数の施設で多種多様な映画を同時並行的に上映するのが特徴だ。スタンプラリーの企画もあり、映画祭のパンフレットに掲載されている指定の会場のスタンプを3個以上集めると「オリジナル映蔵木札」をプレゼントするというサービスが用意されていた。

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スタンプラリー台紙

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プレゼントの木札

横山郷土館では午前11時半から栃木市のご当地映画「しもつかれガール」が上映された。

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横山郷土館の正面

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横山郷土館の内部、この奥が上映会場

この会場ではスクリーンではなく、展示室の一角に常設されている大型のテレビモニターで作品を上映した。

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上映用のモニター

横山郷土館には庭園もあり、映画祭入場者は無料で郷土館内を見学することができる。

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横山郷土館の中庭

かな半旅館では、畳の敷かれた座敷で子供向けの映画が16ミリフィルムで上映された。

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かな半旅館の正面

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奥座敷の上映会場

座敷には16ミリ映写機とスクリーンが設置され、観客は座布団に座って映画を見ることが出来る。間寛平や子役時代の清野優美が出演している柴田敏之監督の「かえだま日曜日」やアニメーション「がんばれスイミー」などが上映され、多くの子供が訪れていた。

栃木市役所1階の市民スペースでは、バリアフリー活弁士によるライブガイド付きで、精神障害者達のドキュメンタリー「あい」などが上映された。

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栃木市役所

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栃木市役所内の市民スペース

各回の上映後には障害者たちの仲間(ピア)によるトークショーが開催された。

イベントスペースの万町北会場では、栃木市の名所や名物を盛り込んだ全10話のオムニバスドラマ「とちぎまちドラマ ストーリーストリートッ!」などが上映された。

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万町北会場正面

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万町北会場内

13日の上映では、上映前にドラマ「とちぎまちドラマ ストーリーストリートッ!」の藤橋誠監督と石塚玲子プロデューサーによる対談が行われた。

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藤橋誠監督(左)と石塚玲子プロデューサー(右)

藤橋監督は、主な出演者に地域の子どもたちを起用するなど地域に密着した市民協働型の「まち映画」の魅力と意義について力説した。石塚プロデューサーは「近くの普通の景色が映画で見ると新鮮に感じる」と語り、映画製作はワクワクする体験だったと振り返った。

栃木市出身の作家である山本有三を顕彰する山本有三ふるさと記念館では、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の長編コンペティション部門でグランプリを受賞した「愛せない息子」などの上映があった。

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山本有三ふるさと記念館の正面

この会場は通常は展示室として使用されているが、映画祭のために展示を移動させ、暗幕を張るなどして上映会場に作り変えた。畳の上に座布団を敷き、観客はその上に座って映画を鑑賞するスタイルになっている。会場はそれほど大きくないので、13日の「愛せない息子」の上映の回は満席になった。

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記念館の入口付近

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山本有三ふるさと記念館の上映会場内

同会場への入場者は記念館の展示も見ることができる。記念館には山本有三の遺品や関連資料が展示されている。

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山本有三が愛用していた机と椅子

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記念館内の展示

蕎麦屋の好古壱番館では、コンペティション作品を中心に上映があった。

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好古壱番館会場の入口

好古壱番館の会場では、奥座敷にスクリーンとプロジェクターなどの機材が設置され、観客は座布団の上に座って映画を鑑賞する。民家での上映であり、映画を見るには必ずしも良好な環境とは言えないものの、サラウンドスピーカーが配置されており、音声面もなかなか充実したものだった。

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好古壱番館の上映会場内

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好古壱番館の上映会場

小山高専サテライトキャンパスでは、若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)による30分の制作実習作品を中心に上映した。

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小山高専サテライトキャンパスの正面

シェアスペース「ぽたり」では、工作教室と「台北カフェストーリー」や「A FILM ABOUT COFFEE」といったコーヒーに関する映画の上映があった。

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シェアスペース「ぽたり」のある店の前

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工作教室の告知

また、街なかイベントとして、フードコートや古本市などが開かれた。

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街なかイベント


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古本市

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13日は雨天となった

13日午後3時からは栃木高校講堂で栃木・蔵の街かどアワード授賞式が行われ、グランプリには中野森監督によるウェディングドレスのモデルオーディションを舞台にしたコメディ「シンデレラのさえずりを聞け」が選出された。審査員特別賞は下向拓生監督の「センターライン」が受賞した。受賞作品が上映され、今年度の映画祭は全日程を終了した。


筆者がこの映画祭を訪れたのは6年ぶりになる。数回の開催で姿を消してしまう映画祭も多く、特に10回目で息切れする映画祭は少なくない。だが、栃木・蔵の街かど映画祭は今回で11回目の開催となり、鬼門の10回目を乗り切ることができた。

前回訪れた時は、上映会場が広域に点在しており、レンタサイクルで会場間を行き来した。移動は大変だったが、まるで強制的に栃木の街を観光させられているような効果があり、蔵の街の魅力をよく知ることができた。今回の映画祭では、会場間の距離が狭まり、移動はかなり楽になった。

作品を公募し、賞を授与するコンペティションも4年前から導入され、映画祭としてのオリジナル度も増した。映画館も大きなホールも使用せずに、街中の民家を活用してこれだけユニークな映画祭が続いていることに畏敬の念を隠しきれない。

上映された作品もコンペティション作品、招待作品、ご当地映画、子ども映画と、そのバランスも良く、来場者に地域をよく見てもらうことにも成功しているのではないだろうか。地域映画祭のモデルのひとつとして、長く継続して欲しい映画祭だ。


(2018年5月13日、栃木県栃木市、栃木・蔵の街かど映画祭) (矢澤利弘)