愛おしい人と旅をするのはなんて楽しいことなのだろう。それが幻影であったとしても。マーリス・マルティンソーンス監督のラトビア映画『ふたりの旅路』は、あることがきっかけで自分の殻に閉じこもってしまった女の心の旅路を描く。
桃井かおり演じるケイコは着物ショーに参加するために神戸からラトビアの首都リガへ。そこでケイコは過去の震災で行方不明になっていた夫(イッセー尾形)と不思議な再会をする。ケイコと夫との奇妙な掛け合いが映画全体に不思議なリズムを作り出している。
再会した夫の正体は明確に示されないまま、ケイコはふたりでリガの街を歩く。人との出会い、テレビ出演、ケイコの心の奥底が次第に明らかになっていく。繊細な余韻の残る映画である。
(2018年7月1日午前10時30分、広島市映像文化ライブラリー)(矢澤利弘)