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パオロ・ズッカ監督の『月を買った男』は、監督自身の生まれ故郷であるサルデーニャ島を舞台に、スラップスティックな笑いとシニカルな風刺が同居するコメディーである。

サルデーニャ島の誰かが月を所有したという未確認情報が世界中の諜報機関を駆け巡る。真偽を確認するため、イタリアの諜報機関はサルデーニャ島出身のケヴィンを島に送る。だが、彼は島の言葉や慣習を完全に忘れており、島に溶け込むために特別なレッスンを受ける。

荒涼とした月面のシーンはズッカ監督の自宅のあるサルデーニャ島のオリスターノで撮られた。ズッカ監督は自分の近所に月面のような場所があったため、月は自分のものだと思っていたそうだ。ズッカ監督は、ある時、アメリカ人のデニス・ホープが月の土地を売りだすという新聞記事を読んだ。そこにサルデーニャ対アメリカという発想が生まれ、この映画のアイデアとなった。ズッカ監督によれば「言ってしまえばパオロ・ズッカ対アベンジャーズだ」と笑う。

この映画には、モーラと呼ばれる変わったじゃんけんや生きたウジ虫の入ったチーズ、カース・ マルツ、格闘技など、サルデーニャ島独特の風習がたくさん出てくる。またサルドというサルデーニャの言語はいかにも田舎の方言という感じだ。こんな風習があったのかと、多くの日本人にとってはそれらがすべて新しい驚きなのではないだろうか。イタリアの一部でありながら、イタリア本土の住民からみれば、サルデーニャは、もはや奇妙な異国のように描かれているのが楽しい。

苦心の末、原住民に同化したケヴィンはバールで村人たちと意気投合する。バールで歌われる原住民たちの歌は圧巻。すべての歌詞はズッカ監督の父親が作ったものだという。映画の中でも実際に父親に歌を歌ってもらったが、結局、父親が歌っているシーンはカットしてしまった、とズッカ監督。

サルディーニャ島を自虐的に小馬鹿にしたようなコメディーのタッチで最後まで突っ走るかと思えば、最終的にはサルデーニャ対アメリカとの壮大な対決となる。サルディーニアの風習や歴史を事前に知っていればより楽しめる作品となっている。サルデーニャ島は、対アメリカとの歴史からみても日本でいえば、ちょうど沖縄のような位置づけに近いのではないだろうか。

笑いと考えさせられる部分がバランスよくミックスされた楽しい作品である。


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パオロ・ズッカ監督


(2018年4月26日、有楽町朝日ホール)(矢澤利弘)


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