「まさかこんな大きな劇場でかけてもらえるとは思わなかった」。『サッドヒルを掘り返せ』のギレルモ・デ・オリベイラ監督は東京国際映画祭の質疑応答で2日、このように話し始めた。 『サッドヒルを掘り返せ』は、マカロニ・ウエスタンの名作『続・夕陽のガンマン ...
カテゴリ:映画レビュー
『グレイン』、近未来の物語に込めた難民問題や分断する社会問題、東京国際映画祭
遠い将来のことだと思っていたことが予想以上の速さで現実社会に近づいてきていると感じたことはないだろうか。トルコのセミフ・カプランオール監督の『グレイン』は、近未来の物語を通して、現代社会の矛盾に対する見る人々の意識を覚醒 ...
『ホワイト・サン』、父の遺体を運ぶ旅路で明らかになるネパール内戦の傷跡、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
ディーパック・ラウニャール監督のネパール映画『ホワイト・サン』が17日、長編コンペティション部門のノミネート作品として SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映された。上映後には共同脚本・編集のデイヴィッド・パーカ ...
『喪が明ける日に』、隣人たちとの「日常」を描いたイスラエル映画、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
好きであっても嫌いであっても、自分の隣人とは付き合っていかなければならない。アサフ・ポロンスキー監督の『喪が明ける日』は、ユダヤ教の喪「シヴァ」を題材に、息子を亡くした夫婦の悲しみと再生をユーモアを交えつつ静かに映し出した人間ドラマである ...
アルメニア映画『殺し屋狂騒曲』、事件に巻き込まれる気弱なクラリネット奏者の悲喜劇、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
レヴォン・ミナスィアン監督のアルメニア映画『殺し屋狂騒曲』は、携帯電話を拾ったことから、殺し屋にされてしまったクラリネット奏者の物語だ。旧ソビエト連邦時代に著名なオーケストラの指揮者をしていた亡父に育てられたクラリネット ...
『こいのわ 婚活クルージング』、富豪の婚活をテーマにした広島のご当地映画
ご当地映画というのは難しい。安易な観光スポット案内の域に留まることものが多いからだ。 金子修介監督の『こいのわ 婚活クルージング』は、資産家の経営者と美人編集者の婚活をめぐる広島県を舞台にしたラブコメディである。 ...
『Raw(英題)』、カニバリズムに目覚める獣医学校の女子学生、フランス映画祭
カニバリズム(人肉食い)を扱ってはいるが、この映画はホラーではないのかもしれない。ジュリア・デュクルノー監督の『Raw(英題)』は、獣医学校に入学した女子学生がカニバリズムに目覚めていく過程をゆっくりと描いていく。16歳の主人公、ジュスティーヌは獣医一家に育っ ...
『パリは今夜も開演中』、金策のためにパリの街をふらふら歩く劇場経営者をめぐる群像劇、フランス映画祭
街には色々な人生が詰められている。この映画も都市のそんな一面を見せてくれる。エドゥアール・ベール監督・主演の『パリは今夜も開演中』は、金策のために、パリの街をさまよい歩く劇場支配人の一夜の物語だ。 舞台の初日を前にして、劇場を経営す ...
『かけがえのない数日』、人生の岐路に立つ4人の若い女性たちの数日間の旅路、イタリア映画祭2017
人生も後半に差し掛かると、ただ友人たちと一緒に過ごした時間がとても懐かしいと感じることが誰にもあるはずだ。ジュゼッペ・ピッチョーニ監督の『かけがえのない数日』は人生の岐路に立つ若い4人の女性たちのほんの数日間のロードムー ...
『いつだってやめられる マスタークラス』、高学歴ワーキングプアの研究者ギャングたちが今度は警察と組む、イタリア映画祭2017
研究者ギャングたちが今度はマッポの手先に。『スケバン刑事』か、はたまた『ターミネーター2』か。シドニー・シビリア監督の『いつだってやめられる マスタークラス』は、高学歴ワーキングプアの研究者たちが脱法ドラッグを密造して一儲けす ...
『切り離せないふたり』、結合双生児の姉妹は切り離さないほうが幸せなのか、イタリア映画祭2017
珍しい特殊な姿をしていることは、本人にとってよいことなのだろうか。ごく普通の姿になることで失うものも多そうだ。エドアルド・デ・アンジェリス監督の『切り離せないふたり』は結合双生児の姉妹の心と体の物語である。ビオラとデジーは腰や太ももが結合した結合双生児の ...
『幸せな時はもうすぐやって来る』、過去と現在、現実と伝説がない混ぜになった脈絡のない映像世界、イタリア映画祭2017
夢を描いたのだろうか。想像力が必要な映画である。アレッサンドロ・コモディン監督の『幸せな時はもうすぐやって来る』は、一貫したストーリーを把握するのが困難だ。ストーリーなど無いのかも知れない。だからといって、特段の映像美があるわけではない。過去と現在、現実 ...
『ピューマ』、10代のカップルが出産を迎えるまでの9カ月間の物語、イタリア映画祭
子供を産み、育てることは人生の終わりなのだろうか。ロアン・ジョンソン監督の『ピューマ』は、10代で子供を産むことになった若いカップルの出産までの9カ月間を日記風に描く。若いカップルのカテとフェッロ。カテが妊娠し、ふたりはフェッロの実家に居候することになる。ふ ...
『花咲く恋』、未成年更生施設のなかで芽生えた切ない恋のゆくえ、イタリア映画祭
最初はどうしようもない奴だと思っていたが、次第に愛おしくなってきた人間は、あなたのそばにはいないだろうか。クラウディオ・ジョバンネージ監督の『花咲く恋』は、未成年更生施設で知り合った男女の切ない恋のゆくえを描く。携帯電話強盗で生活していた少女ダフネは警察 ...
『告解』、G8財務相会議でIMF専務理事の死亡事件に巻き込まれた修道士、イタリア映画祭
修道士は懺悔で知った秘密を決して口外してはならない。ロベルト・アンドー監督の『告解』は、バルト海に面した高級ホテル内での政治的な駆け引きに巻き込まれた修道士の言動を通じて、人間のあり方を描く。ほぼホテル内だけに限定して物語が展開する静かな会話劇である。G8 ...
『ジュリアの世界』、エホバの証人をモチーフにした少女の心の解放の物語、イタリア映画祭
厳格な小さな世界で生きることを選択するのか、それとも俗だが広い世界で生きていくのか。マルコ・ダニエリ監督の『ジュリアの世界』は、エホバの証人というモチーフを使って、ある少女の心の再構築を描いた作品である。 エホバの証人の敬虔な信者である両親を持つ少女ジ ...
『愛のために戦地へ』、第二次大戦下の恋愛譚を通じてマフィアの暗部を描く、イタリア映画祭
ごく単純な恋愛譚がマフィアをめぐる激動のイタリア近現代史に昇華していく。その見事な構成と映画的筆致に脱帽せざるを得ない。ピエルフランチェスコ・ディリベルト監督の『愛のために戦地へ』は、第二次世界大戦下のシチリアを舞台に、主人公の恋愛事情を主軸にしつつ、 ...
『堕ちる』、地下アイドルにハマった中年男の悲哀を描いた快作
売れないアーティストを応援しているファンの心境というものは複雑だ。そのアーティストがもっと売れて欲しいと願う一方、自分だけのものでいて欲しいと思っていたりもする。村山和也監督の『堕ちる』は、寂れた工場で働く織物職人の主人公、耕市がふとしたきっかけで地 ...
『人間シャララ宣言』、よくわからないほど自由な作品、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭コンペティション
「よくわからない」というのが、この映画を見た人の率直な一言だろう。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017のファンタスティック・コンペティションで上映された柘植勇人監督の『人間シャララ宣言』は、京都造形芸術大学映画学科の卒業制作作品である。 明確なスト ...
『トータスの旅』、裸で暴れる夏のロードムービー、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017グランプリ受賞作
勝手気ままに生きている兄(川瀬陽太)。自動車事故で妻を亡くし、一人で息子を育てる弟の次郎(木村知貴)。兄の婚約者(湯舟すぴか)。そして息子の登。永山正史監督の『トータスの旅』は、どこかイカレている4人が亀と一緒に結婚式を挙げる島へ向かう旅を描くひと夏 ...